『いろいろな幽霊』ケヴィン・ブロックマイヤー著

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いろいろな幽霊

『いろいろな幽霊』

著者
ケヴィン・ブロックマイヤー [著]/市田 泉 [訳]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784488016890
発売日
2024/04/18
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『いろいろな幽霊』ケヴィン・ブロックマイヤー著

[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)

生とは死とは 百篇の話

 探偵小説や推理小説に「奇妙な味」と称されるジャンルがあるが、正に正に。

 ごくごく短い二ページほどのお話が百篇(へん)、つまり百の幽霊譚(たん)。これがなんとも味わい深く、面白い。怖かったりユーモラスだったり、悲しかったり。なかには幽霊?と思っちゃう存在もいるけれど。

 自分が失恋した瞬間を繰り返す女性の幽霊。彼女の心にあるのは、最愛の男性を失った瞬間ではなく、実は……「注目すべき社交行事」。

 突然何かの授賞式に参列していた女性の最悪の気づき「ミラ・アムスラー」。

 ゾウの世界に幽霊が誕生する「ゾウたち」。

 幽霊の雨がもたらした奇妙な果実、それを食べた人たちの不思議な体験を描く「空から降ってくるもの」。

 テレポーテーション能力を持つスーパーヒーローの知られざる苦闘と不(ふ)倶(ぐ)戴天(たいてん)の敵との邂逅(かいこう)「ファンタズム対スタチュー」。

 亡くなった人との儚(はかな)く、でも確かな交流「香り(ブーケ)」。

 幽霊と孤独な寡夫との本を使った会話「夕暮れとほかの物語」。

 淡々と、レポートかカルテ、もしくは後書きにある変奏曲のように綴(つづ)られた百の物語。それぞれが幽霊と○○というかたちで分類され、巻末には索引もついている。

 これを読んでいると、幽霊とは一体何だろう、と考えてしまう。この世とあの世の違い、生きていることと死んでいることの違い。狭(はざ)間(ま)、境界、あわいに閉じ込められ、動けない存在。思い出。過去。感情と行動、必然と偶然。生きることと死ぬことのバリエーションを、幽霊という一点を焦点に描ききってみせる。

 ベッドの中で一篇ずつ読み、自分は死んだらどんな幽霊になるだろう、と思いながら眠りにつくのも、夏の夜の良い楽しみ方かもしれない。市田泉訳。(東京創元社、2640円)

読売新聞
2024年7月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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