『大相撲の不思議3』内館牧子著

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〈新書〉大相撲の不思議3

『〈新書〉大相撲の不思議3』

著者
内館 牧子 [著]
出版社
潮出版社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784267024252
発売日
2024/05/02
価格
935円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『大相撲の不思議3』内館牧子著

[レビュアー] 橋本五郎(読売新聞特別編集委員)

仁王立ちで語る「相撲愛」

 「牧子節」が炸裂(さくれつ)している。なにしろ4歳で相撲に目覚め、紙力士で「牧子場所」の番付表を作ることで幼稚園でのいじめを耐え抜き、小学校の初恋の人は鏡里というから驚く。相撲の奥義を極めるため東北大学の大学院に通った相撲通による本書は、既刊1・2と併せてさながら「大相撲大百科」。相撲愛に満ち溢(あふ)れ、仁王立ちで大相撲の「敵対勢力」をなぎ倒す。

 相撲の神から遣わされた「巫女(みこ)」とも呼ぶべき彼女にとって何よりも許しがたきことは、相撲の伝統精神を理解しない人たちだ。土俵という聖域にクールビズ姿であがって内閣総理大臣杯を渡す内閣官房副長官。「女性を土俵にあげないのは男女差別だ」と気勢をあげる男女共同参画論者。彼ら彼女らは相撲の伝統が何たるかをまったく分かっていない。

 とりわけ朝青龍、白鵬の両横綱には容赦がない。「不浄」の左手で懸賞金を受け取ることは御(ご)法(はっ)度(と)なのに朝青龍は平気で左手で手刀を切る。この「勝ちゃ文句ねぇだろ横綱」は外国文化を舐(な)めている。白鵬の技は「かちあげ」ではなくプロレスの「エルボー」としか思えない。エルボーとは肘で相手の首、あごを一撃する荒っぽいものだ。我流に崩した白鵬の土俵入りには横綱の香りも品格も美のカケラもない。

 この大相撲辞典は怒りだけでない。多くの謎に迫り、さまざまなエピソードに満ちている。「史上未曽有の最強力士」と呼ばれる雷電為(ため)右衛(え)門(もん)はなぜ横綱になれなかったのか。「金星(きんぼし)」を一番配給した横綱は誰だったのか(正解は北の湖)。双葉山はなぜ69連勝でストップしてしまったのか。本人に聞くにしくはないとばかり、青森のイタコに双葉山の霊を降ろしてもらい、「腰も悪かったが、気の問題だった」という答えの引き出しに成功(!?)している。

 大相撲ファンはもちろん、これまで大相撲に興味のなかった人にとっても、大相撲が百倍も楽しいものになること請け合いである。(潮新書、935円)

読売新聞
2024年7月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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