『道鏡 悪僧と呼ばれた男の真実』寺西貞弘著

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道鏡

『道鏡』

著者
寺西 貞弘 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784480076168
発売日
2024/04/10
価格
968円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『道鏡 悪僧と呼ばれた男の真実』寺西貞弘著

[レビュアー] 岡本隆司(歴史学者・早稲田大教授)

 史上の人物なら、伝説俗説はつきもの。日本でその最右翼といえば、やはり「悪僧」道鏡であろうか。

 そんな俗説をあえて「うわさ」と称して説き起こす。黒白・真偽を判じる叙述がすすむにつれ、掛け値なしの「真実」追究に引き込まれた。文は人なり、著者の人間を反映してか、謹厳実直が横溢(おういつ)している。そこが本書の本領だ。

 実証の書である。基本史料の『続日本紀』を徹底的に読みなおし、史実を復元する精細な論述は、所説の当否にかかわらず、史学を囓(かじ)った人にはたまらない。

 奈良の王権を考察するには恰好(かっこう)の題材でもある。「うわさ」の虚実に光を照らすのは、そんな関心をも満たしてゆくにひとしい。

 師承の書でもある。著者の恩師も六十五年前、同題の書物を著しており、謹厳実直は師説との格闘から生まれた。道鏡の生年の考証にはじまり、ビッシリ付された注の数々にも、そのことがうかがえる。

 おそらくは、そんなマジメさ余っての勇み足、首をかしげる誤植もご愛敬(あいきょう)。謹厳実直の塗り替える群像が、古代史を考えなおすよすがになる。(ちくま新書、968円)

読売新聞
2024年7月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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