スマホが視力の代わり…4歳で失明した女性のエッセイと、東洋と西洋の医学がガチンコ勝負した医学本2冊を紹介

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わたしのeyePhone

『わたしのeyePhone』

著者
三宮 麻由子 [著]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784152103291
発売日
2024/05/09
価格
2,090円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

医学問答 西洋と東洋から考えるからだと病気と健康のこと

『医学問答 西洋と東洋から考えるからだと病気と健康のこと』

著者
仲野徹 [著]/若林理砂 [著]
出版社
左右社
ISBN
9784865284140
発売日
2024/06/27
価格
1,980円(税込)

[本の森 ノンフィクション]『わたしのeyePhone』三宮麻由子/『医学問答』若林理砂・仲野徹

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 新しい機械やシステムを初めて使ったあと「便利になったなあ」と驚く瞬間が最近増えた。先日も必要に迫られてPayPayを導入した。スマホ決済が怖かったのだが、いやはや便利ではないか。『わたしのeyePhone』(早川書房)はその実感を裏打ちしてくれた。

 著者の三宮麻由子は幼い頃に眼病で失明したエッセイスト。目が見えないことを「シーンレス」という独自の和製英語で表現し、触覚、聴覚、嗅覚、味覚で感じる世界を繊細な文章で伝えてくれてきた。

 そんな日常がコペルニクス的転回を迎える。スマホの導入だ。著者は言う。

―スマホが私の存在の根底を支え、希望の光と「できること」を与えてくれる存在になった―

 一人暮らしを選択した著者にとってシーンレスでは買い物や郵便物の仕分けなどは難事業だった。だがスマホがあれば読み取り、声で教えてくれる。目の前にあるモノが何か判断してくれる。写真だって撮れるし、知らない道でもグングン歩ける。

 私も最初にスマホを買ったときは操作に難儀したが慣れた今では手放せないし、無いと不安だ。著者の悪戦苦闘は我が事のようだが、だがそこを乗り越えれば、全く違う世界が広がっていく。

 だからと言って点字が無意味なわけじゃない。世の中は読むことだけでなく書くことの自由が保障されるべきだ。著者が力説していることがとても嬉しい。

 ともあれ本書によってAIがすべての人に恩恵を与えてくれると確信した。心弾むエッセイだ。

「肩こり」を表す概念が海外には無いという。その割には来日した観光客に一般的な湿布薬が人気だ。不思議だと思っていた。

『医学問答』(左右社)は鍼灸師として絶大な人気を誇る若林理砂と大阪大学大学院名誉教授の仲野徹という東洋と西洋の医学専門家が、病気を治すことに関してのお互いの疑問をぶつけあう、というガチンコ勝負の医学本だ。内容はかなり高度だが、なるほど、と合点がいく話がたくさん登場する。

 考えてみれば日本人は病気の治療に関して寛容だといえる。風邪を引けば近くのクリニックに行くし、身体が凝っていると感じれば鍼灸院やマッサージに通う。薬局で漢方薬を買うことに躊躇いはないし、手術が必要になればイヤイヤでも従う。

 では東洋と西洋の医学は何が違うのか。冒頭に掲げられた言葉は「西洋医学の基礎は自然科学、東洋医学の基礎は自然哲学」。

 よくわからないまま読み進めていくと、歴史の中でお互いが歩み寄っていく過程が読み取れる。体の不調を治すために有効な治療法なら、西洋も東洋もないだろう。訪日客が湿布薬を買い求めるのも、もしかしたらそんな心理の表れなのかもしれない。

 西洋医学では原因が分からないと治療ができない。最近、この現実を身近で経験したが、もし東洋医学の医師に見せていたらどうなっていたのだろう。 

新潮社 小説新潮
2024年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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