『組織不正はいつも正しい ソーシャル・アバランチを防ぐには』中原翔著

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組織不正はいつも正しい

『組織不正はいつも正しい』

著者
中原翔 [著]
出版社
光文社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784334103224
発売日
2024/05/15
価格
924円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『組織不正はいつも正しい ソーシャル・アバランチを防ぐには』中原翔著

[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)

各自の「正しさ」疑う必要

 日本を代表する大企業で不正行為が頻発している。本書は経営学者が組織不正の実例とその真因を深く掘り下げて論じたものだ。不正は特定の当事者が機会を利用し、その動機によって意図的に起こす。従って内部統制や監査をきちんと行い原因を取り除けば防止できるというのが一般的な考えだろう。だが著者はその考えは楽観的すぎるという。経営中枢や各部門がそれぞれの「正しさ」を追求し、折り合いがつかない時、生産部門に不正が発生したり、その継続を余儀なくされたりするケースがある。また過大な目標の実現が行政から求められた場合、必要人員が十分でない体制で生産拡大を行なった結果、重大な問題を起こしたといった例もある。

 さらに不正事例では微妙なものも存在する。自動車の燃費「不正」事例においては、日本の法令等に従ってデータを取ろうとしても、それが気象条件などにより測定不能な場合、企業が同等と判断する検査方法で代替しているケースがある。企業においてはその行為は「不適切」であっても、それが「不正」なのかという思いがあるようだ。こういうケースについては行政組織の追求した「正しさ」と企業の考える「正しさ」の差異が発生したことが原因であると本書はいう。そして何故行政は使いにくい測定方法を採用したのか、企業は何故測定方法が使いづらいと訴えなかったのかと疑問を呈する。

 このように組織不正は根の深い問題である。著者は、組織や組織に属する個人の「正しさ」を追求する力が強くなりすぎれば、不正の雪崩現象を起こすという。そして不正防止には自らの信じる「正しさ」を疑い「正しさ」を見直すことが大事である。そのためには牽制(けんせい)体制の強化に加え、ガバナンス体制における多様性の確保や、行政と企業、企業の上部組織と現場との真摯(しんし)な対話が必要と強調する。題名に驚く読者も多いと思うが、読み進めばこのネーミングをした著者の真意が伝わってくる。(光文社新書、924円)

読売新聞
2024年7月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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