殺伐としたSNSはもうやめて日記でにやにや和みましょう

レビュー

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724の世界 2023

『724の世界 2023』

著者
吉本ばなな [著]
出版社
DR BY VALUE BOOKS PUBLISHING
ISBN
9784910865072
発売日
2024/05/24
価格
1,980円(税込)

殺伐としたSNSはもうやめて日記でにやにや和みましょう

[レビュアー] 夢眠ねむ(書店店主/元でんぱ組.incメンバー)

 人様の日記を読む、というのは通常あまり出来ることではない、はずである。しかしこの世には「日記文学」という合法的に日記が読めるジャンルがある。主に平安時代から鎌倉時代までのものを指すようだが、私は現代の日記も文学だと思って読んでいる。

 下北沢に日付のついた日記の作品しか置いていない「日記屋 月日」という専門店があり、そこで買ったのが本書だ。装丁が美しくて手に取った瞬間からわくわくする。日記というものは、実は日記帳の煌めきから始まるんじゃないか。

 キラキラした函からしずしずと取り出し、水色の柔らかなページを捲ると2023年の1月1日から12月31日まで1年分の日記がぎっしり。まえがきに「毎日ひとことぐらい、他人のなんとなくくだらないどうでもいい気づきや生活の感じを見ると和むよね」と書かれており、大きく頷く。

 少し前まではSNSがその役割を担っていたのに、いまや和むどころか殺伐とした場所になってしまっていて、ただその日のことを書いているだけだとしてもインターネット上だからこその議論・討論・なんやかんやで心が疲れてしまう。

 こっそり書かれたものをこっそり読ませていただく、紙媒体の良さをしみじみ噛み締める。何度もにやにやしたり声に出して笑っているうち「自分も日記が書きたいな」と思ってしまうが、去年末に手に入れたものの、使いこなせていない日記帳をじっと見つめて我に返る(そもそもこの短さでこの面白さ、自分には不可能なのだけれど)。

 これは個人的な喜びなのだが、何にも知らずに読み進めていたら私のお店の話が登場した。人の日記に自分の話が書いてあるという初めての経験。そして、自分が知らないだけで誰かの日記に友人や店員や通りすがりの人として登場しているかもしれないぞ、と、ちょっと背筋を伸ばしてみるのであった。

新潮社 週刊新潮
2024年7月18日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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