内向的な人が「自分らしく生きる」にはどうすればいいのか? 内向型カウンセラーに聞いた、コンプレックスを強みに変える方法

インタビュー

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世界一やさしい内向型の教科書

『世界一やさしい内向型の教科書』

著者
井上 ゆかり [著]/本橋 へいすけ [監修]
出版社
株式会社 世界文化社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784418246007
発売日
2024/05/28
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

内向的な人が「自分らしく生きる」にはどうすればいいのか? 内向型カウンセラーに聞いた、コンプレックスを強みに変える方法

[文] 世界文化社

「質問にすぐ答えられない」「大勢の場が苦手」「ひとり反省会が止まらない」
そんな傾向を持つ人は、“内向型”の可能性があるといいます。内向型カウンセラーとして活躍する井上ゆかりさんは、ご自身も内向型です。

「私は10代、20代、30代と“自分には何もない” “どうして私ってこうなんだろう”そんな悩みを抱えてきました。自分が内向型だと気づいて、その強みを活かせるようになった今、同じように悩んでいる方々に“自分も悪くないかも”と思ってもらいたくて、内向型カウンセラーの活動をしています」

これまでに1万人の内向型と向き合い、今年5月『世界一やさしい内向型の教科書』(世界文化社)を刊行したばかりの井上ゆかりさんに、内向型が自分らしく生きるための方法をお聞きしました。

――そもそも、内向型とはどのような人をいうのでしょうか?

内向型の特徴はたくさんあるのですが、それが特にわかりやすく表れるのは、元気になりたいときの時間の過ごし方です。ひとりで静かな時間を過ごしたい人は内向型、みんなでわいわいアクティブに過ごしたい人は外向型という傾向があります。

――内向型が悩みを抱えやすい理由はなんだと思われますか?

私はひとつには、“外向型推し”ともいえる社会の環境があると考えています。
小学校に入学したころから、「友だちをたくさん作りましょう」「手を挙げて積極的に発表しましょう」といわれ、外向的なふるまいがよしとされるようになります。それができていないと見なされると、先生や親から「もっとみんなと遊んだら?」と言われたり、通知表に「授業に積極性に参加しましょう」と書かれたり。大人は「よかれと思って」外向的なふるまいを勧めてきますが、そう言われた内向型の子どもは無意識のうちに「いまの自分のままじゃダメなんだ」と感じるようになります。

――大人の世界でも、“外向型推し”は続いている気がします。

そうですね。ビジネスシーンでも、会議などの場で積極的な発言や、テンポのいい受け答えができる人が、いまでいう「シゴデキ」(仕事ができる人)に見られやすいですよね。内向型は外向型に比べて、脳内の情報の通り道が長いため、情報のインプットからアウトプットまでに時間がかかります。そのため、会議の場ではすぐに意見が浮かばなかったり、質問されてもすぐに答えられなかったりということが珍しくありません。
ハキハキと発言する人が主体的で有能に見えて、発言しない人が消極的でやる気がないと評価されやすい職場は、内向型にとってつらいですよね。


「言葉がすぐ出ない」、内向型の多くが抱える悩みのひとつ。

――“外向型推し”の社会のなかで、ゆかりさんご自身はどのように「自分らしく生きる」方法を見つけられたのですか?

転機は、自分が「内向型」だと自覚できたことです。
私は、10代、20代、30代と、環境や相手が変わっても同じようなことで悩んでいました。周りと比べて自分は欠点ばかりに思えて、努力不足だと、自分を否定してばかりいました。
ある日、「自分に自信がない」「自己肯定感を上げたい」とgoogleで検索して、自分の生きづらさを解決するヒントを探していました。そのときたまたま見つけたブログに内向型のことが紹介されていたのです。そのとき初めて「内向型」という言葉を知りました。

「なんで私のこと知ってるの?」と思うほど、ブログに書かれていた内向型の特徴が自分を表していて、とても驚きました。それと同時に「私だけじゃないんだ。こういうタイプの人ってけっこういるんだ」とほっとしたんです。

――自分を「知る」ことで、人生が動き始めたんですね。

そうなんです。そこから、自分のことをもっと知りたいという思いで、内向型についてさらに調べ、本を読むようになりました。そうするうちに、内向型寄りなのか外向型寄りなのかは、ある程度、遺伝で決まるといわれていることも知りました。知識として知ったことで、少しずつ、自分の特性や傾向を受け入れられるようになっていきました。
私のこれまでの人生でも、これからの人生でも、内向型は切っても切り離せない軸なんだ。だったら、内向型らしさは自分の一部だと受け入れて、そのうえでどうしたいか、何ができるかを考えてみよう、と腹落ちしました。そこから、私の人生は少しずつ変わり始めたと思います。

いまは「内向型カウンセラー」として、内向型に関する情報発信やカウンセリングを行ったり、まじめながんばり屋さんのための手帳のプロデュースをしたりして、自分の強みを活かしながら働いています。自然が望める場所で過ごしたくて、東京から福岡に移住しました。これも、内向型の自分に心地いい環境を選んだ結果です。

――ゆかりさんのように、内向型の方が自分の強みを活かすためにはどうしたらいいのでしょうか?

5月に出させていただいた著書『世界一やさしい内向型の教科書』(世界文化社)では、先ほどの私自身の体験談でお伝えしたように、内向型を「知る」ことからスタートすることをおすすめしています。内向型を正しく知ることで初めて強みが見え、その活かし方も見えてくるからです。

――「正しく知る」がポイントですか?

そうなんです。いまの活動をしていると、内向型の方自身も、内向型を誤解していることが多いと感じるんですね。たとえば、セミナーなどで「内向型って、どんなイメージですか?」と聞いてみると、返ってくるのは「コミュ障」「内気」「おとなしい」などのお答えです。最近は、内向型について書かれた翻訳本の影響で、「静かな人」という方もいます。でも、私はこれらの言葉って、内向型の本質ではないなと感じています。

口数が少ない内向型もいるとは思いますが、一方で、話すことが好きな人もいます。普段は人見知りでも、仲のいい友人となら話がつきない人もいます。初対面の人と話したり、大勢の前で話したりするのが苦手なだけで、社交的で明るい内向型もいます。
私の考える内向型とは、「静かな時間を求める人」です。

――「静かな時間を求める人」、内向型の新しい定義ですね。

「覚醒レベル」と呼ばれる、心理学用語があります。これは、パフォーマンスにかかわる緊張状態のレベルで、覚醒レベルが高いと興奮・緊張した状態、覚醒レベルが低いとリラックス・落ち着いた状態だといいます。おもしろいことに、外向型の人は普段の覚醒レベルが低く、内向型の人は普段から覚醒レベルが高い状態にあるのだそうです。


人は最適な覚醒レベルのときに、いいパフォーマンスを発揮できるといわれている。

だから内向型は、人込み、話し声、満員電車など少しの刺激でも心拍数が上昇し、不快に感じやすいのです。そのため内向型は、日常生活の中で受けた刺激を「静かな時間」で和らげる必要があります。
外向型の中にも「ひとりの時間が好き」という人はいると思いますが、内向型にとっては「静かな時間が取れないと倒れてしまう」くらいなくてはならないものなんです。そのため、「静かな時間が好きな人」より「静かな時間を求める人」という表現のほうが合っていると思います。

――すごくおもしろいお話ですね。たしかに、人と会ったあとや飲み会のあとはどっと疲れて、家に帰っても何も手につかず、ボーっとしてしまうことがあります。

そうそう! その感じ、すごくよくわかります。受けた刺激によって覚醒レベルが上がってしまったため、それを鎮める時間を脳が求めているんだと思います。

内向型は「静かな人」ではなく「静かな時間を求める人」。似ているようで意味はまったく違います。内向型の意味を誤ってとらえていると、「私は内向型だから、静かでおとなしい性格なんだ」と自分を内向型の枠に押し込んでしまいます。
「内向型」という“言葉の呪い”にとらわれると、なんでも内向型のせいにして自分を諦め、自己評価が下がってしまうのです。
内向型と外向型の違いは「求めている時間の使い方」であり、本来、どちらがいい、悪いと評価されるものではありません。辛党の人と甘党の人がいたときに「辛いものを食べられる人のほうがすごい」とはなりませんよね。辛いものが好き、甘いものが好き。それ以上でもそれ以下でもありません。内向型と外向型も同じです。

こう考えると、内向型に対するネガティブなイメージが溶けていって、ポジティブにとらえられませんか? 私たち内向型が自分らしくいるために大切なのは、刺激を受けすぎないように「静かな時間」を定期的かつ十分に取って、心の余白を確保することです。「静かな時間」があれば、内向型は心穏やかに、元気に過ごすことができます。


内向型は「静かな時間」で回復する

――なるほど、すごく納得感があります。では、内向型の強みとはどのようなものだとお考えですか?

内向型の強みはたくさんありますが、ひとつの方法として、「コンプレックスを裏返す」と見えるものがあると思っています。たとえば内向型の方からよく聞く、「質問にすぐ答えられない」という悩みについて。先ほどお伝えしたように、内向型はインプットからアウトプットまでに時間がかかるので、質問にすぐ答えられない人は多いんです。ただその分、ひとりでじっくりと考えを深めることは得意です。考える時間を確保することで、より深い考えを導き出すことができます。たとえばビジネスの場なら、「その件はよく調べてお返事したいので、少しお時間いただけますか?」などと伝えて、あとからしっかり練り上げた提案をできれば、お相手からも強い信頼を寄せていただけるでしょう。

ほかにも、「大勢の場が苦手」な方は「1対1の深い話をするのは好き、得意」と言えますし、「ひとり反省会が止まらない」方は「ふり返りによって、次に生かすことができる」という強みにつながっています。
「私には何もない」と思っている方は、自分が感じているコンプレックスを裏返して考えてみると、新しい自分が見えてくるはずです。


コンプレックスを裏返せば、自分の強みが見えてくる

――コンプレックスが強みに変わるとは、意外でした。

内向型の方は、コンプレックスを気にして「今の自分じゃだめだ」と思い、外向的なふるまいを目指す方がすごく多いんです。かつての私もそうだったので、お気持ちは痛いほどわかります。
ですが、外向型になろうと無理をして、がんばっては挫折して、外向型になれない自分のことがどんどん嫌いになる……それって負のループなんですよね。そのことに気づいて、断ち切ってほしいと思っています。「ないものねだり」を手放して「すでにあるもの」「持っているもの」に意識を向けてみてほしいんです。内向型の私たちに苦手なことは、確かにあります。でもそれと同様に、内向型の私たちだからこそできることもあります。すでに持っているものやできることを磨くことで、自分らしさを発揮して、輝くことができます。

「外向型にならなければいけない」という呪いを解いて、「内向型を直さず活かす」生き方に舵を切る。これこそが、内向型が自分らしく生きる道だと、私は考えています。
ぜひ、自分の持っている可能性に気づいて、「内向型を直さず活かす」生き方を叶えていただきたいと思います。

 ***

●話し手 

井上ゆかり
内向型カウンセラー。自身が20年間コンプレックスを感じていた内向性を受け入れられるようになった経験と独自の分析力をもとに、2018年からSNSなどで「内向型を直さず活かす生き方」を発信。これまでに内向型コミュニティの主宰や講演、カウンセリングセッションなどを行う。その後活動の幅を広げ、まじめながんばりやさんが自分にやさしくなれる手帳「pure life diary」の開発や、モヤモヤを軽くするセルフケアノート講座を主宰。これらの活動を経て、約1万人の内向型の方と関わってきた。2020年3月には日本人女性初となる内向型の書籍『もう内向型は組織で働かなくてもいい』(堤ゆかりとして/世界文化社)を出版。共著に『人生の純度が上がる手帳術』(ディスカヴァー21)がある。内向型。

イラスト・図はすべて『世界一やさしい内向型の教科書』(世界文化社)より

世界文化社
2024年7月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

世界文化社

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