『魔女狩りのヨーロッパ史』池上俊一著

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魔女狩りのヨーロッパ史

『魔女狩りのヨーロッパ史』

著者
池上 俊一 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784004320111
発売日
2024/03/22
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『魔女狩りのヨーロッパ史』池上俊一著

[レビュアー] 小池寿子(美術史家・国学院大教授)

 箒(ほうき)に跨(またが)り空を飛んでサバト(悪魔を中心とする魔女集会)へ向かう。こうしたイメージはいつから形成されたのだろうか。本書は十全に研究史を踏まえ、「魔女妄想」の実態に迫る魔女研究の決定版である。

 魔女の定義に始まり、告発から処刑までのプロセス、些(さ)細(さい)な事例、魔女を作り上げた人々、ジェンダー、魔女狩りという狂乱、その終(しゅう)焉(えん)へと展開する本書の最大の特徴は、歴史資料の揺るぎない解読と客観的解釈にある。さらにはサバトや処刑などの、あまりに具体的かつエロティックでグロテスクな記述に愕(がく)然(ぜん)とし、圧倒される。なぜ、人間はかくも残虐になれるのか。

 魔女狩りが猖(しょう)獗(けつ)を極めたのは15世紀から17世紀半ば。ヨーロッパが近代への道を歩む過程であった。しかしその温床は13世紀後半から14世紀前半。スコラ学的合理性の「悪魔学的転回」にあった。理性偏重は、人間の奥深い闇をも生み出していったのだ。既存の魔女本が特定のテーマに絞られがちなのに対し、時事問題をも射程に入れた総合的視点が提示される。魔女という鏡に、ヨーロッパの光と闇があぶり出されてゆく。(岩波新書、1100円)

読売新聞
2024年7月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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