『雀荘迎賓館最後の夜』大慈多聞著

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雀荘迎賓館最後の夜

『雀荘迎賓館最後の夜』

著者
大慈 多聞 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103555919
発売日
2024/04/17
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『雀荘迎賓館最後の夜』大慈多聞著

[レビュアー] 宮内悠介(作家)

 ギャンブル小説がときとして独特のペーソスを宿すことは『麻(マー)雀(ジャン)放浪記』などが実証した通り。広告業界出身としか公表されていない謎の新人による本作は、ギャンブル小説のそういう側面をブーストしたような内容だ。作中には麻雀牌(パイ)そのもの、いわゆる牌フォントが挿しこまれるが、一局を通して描かれる場面はごく一部だけ。主眼は、「迎賓館」という雀荘に集う人々の人生の一幕にある。

 登場人物にはそれぞれ生活があり、麻雀一本という者はいない。作中の表現を借りるなら、「麻雀に対して薄い狂気を抱えながら、何とか市民を保って向こう側に落ちない」者たちということになる。たとえばレストランチェーンの取締役、広告会社の営業局長代理、不思議な力で危険牌を察知できる法務事務所代表、並外れた記憶能力を持つ高校教師、そしてそれに挑戦する現代的な打ち筋の学生などなどだ。

 特徴の一つは、「昭和の教養人男性」的なる文章や台詞(せりふ)回しだろう。評者はこの部分にかえって新味を感じたが、ここに魅力を感じるか抵抗を覚えるかで評価が分かれそうなのは確かだ。(新潮社、1980円)

読売新聞
2024年7月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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