「是が非でも受賞作を出す」暗黙の掟が発動するか? 7/17発表の芥川賞を占う

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海岸通り

『海岸通り』

著者
坂崎 かおる [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163918815
発売日
2024/07/10
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「是が非でも受賞作を出す」暗黙の掟が発動するか? 7/17発表の芥川賞を占う

[レビュアー] 栗原裕一郎(文芸評論家)

 第171回芥川賞候補作が発表された。

・朝比奈秋「サンショウウオの四十九日」(新潮5月号)
・尾崎世界観「転の声」(文學界6月号)
・坂崎かおる「海岸通り」(文學界2月号)
・向坂くじら「いなくなくならなくならないで」(文藝夏季号)
・松永K三蔵「バリ山行」(群像3月号)

 朝比奈、尾崎、松永作については当欄で取り上げた。5分の3。まあまあの打率と思われるかもしれないが、芥川賞の場合、優れた作品が候補に選ばれている、と単純に言い切れないのが占うのに難しいところだ。

 主催である日本文学振興会の思惑が入り込んでいるとはよく囁かれるところで、「今回は誰某シフトだ」といった下馬評がまことしやかに流れたりする。勘繰りめいて響くだろうが、何人かの作家の傍証じみた発言もあったりして、あながち根も葉もない話ではない。

 さて、今回。シフトっぽい感じはなく、なぜこの凡作が?と首を捻る候補もなく、比較的公正に選出されている印象である。

 傑出した作も、箸にも棒にもかからない作もなく、誰が受賞しても不思議はない。いっそ受賞作なしが妥当と考えるが、「是が非でも受賞作を出す」が芥川賞暗黙の掟らしいので、今回のように中の上くらいの作品がひしめいている場合、むしろ2作授賞もありうる。

 こうなると消去法で予想を立てるより仕方がない。

 結合双生児を扱った朝比奈作、転売ヤーがセレブに、無人無観客ライブが最先端になる反転社会を描いた尾崎作は、奇を衒いすぎと選考委員に嫌われそうだ。

 死んだはずの親友が現れ棲み着かれるという設定の向坂作は、ツメが甘いと弾かれると思われる。

 松永作も「バリエーションルートの登山」という珍奇な題材だが、流行の「当事者性」が看取できるため、好感に傾く可能性がある。

 老人ホームで清掃員として働く日本人女性とウガンダ人女性の交流を描いた坂崎作は、適度な社会性と、適度な「物語性の希薄さ」がいかにも芥川賞好みだ。

 よって、松永K三蔵と坂崎かおるのW受賞と予想。

新潮社 週刊新潮
2024年7月11日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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