ボーイズラブという言葉のない時代。おたくとサブカルの間のカオス!

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「JUNE(ジュネ)」の時代

『「JUNE(ジュネ)」の時代』

著者
佐川 俊彦 [著]
出版社
亜紀書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784750518367
発売日
2024/05/27
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ボーイズラブという言葉のない時代。おたくとサブカルの間のカオス!

[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)

『投稿写真』に『マガジンウォー』に『マガジンBANG』と、ボクも90年代にはサン出版(現マガジン・マガジン)でよく仕事をしていた。まあ、ハッキリ言えば当時はエロ系の会社で、設立された70年代には『少年ジャンプ』にあやかって「頭に『劇画』とつければ大丈夫」という勝手な理屈で商標登録も済ませ官能劇画誌の『劇画ジャンプ』を出したり、ついでに『劇画チャンピオン』という名前も登録したりと、かなりのデタラメぶりだったようだ。

 さらには74年創刊の老舗ゲイ雑誌『さぶ』や、78年創刊の日本初のBL雑誌『JUNE』も出していたんだが、本書はBLなんて言葉も存在しない時代にサン出版のアルバイトながら『JUNE』の企画を出して創刊スタッフとなり、やがて編集長となった重要人物による回顧録。同人誌やコミケ黎明期の話も含めて当事者ならではの証言多数で、これが本当に面白かった。いまみたいにおたくとサブカルの間に変な溝がない時代だったからこそのカオス!

 男でも萩尾望都や竹宮惠子の少女漫画を読み始めたおたく第一世代だからこそ彼は当時の言葉で言うところの「少年愛」「耽美」な女性向けの雑誌企画が出せたんだろうが、同時にグラムロックの影響も受けていたようで、当時のおたく仲間と紅蜥蜴や頭脳警察のライブに行った話が出てくるのも興味深い。表紙のイラストは竹宮惠子だけど、表紙デザインは秋山道男、グラビア撮影は小暮徹、キャッチコピーは林真理子と、少女漫画や同人誌文化を中心としつつ、かなり雑多なものがミックスされていたのが面白かったのである。

 最近亡くなった漫画家・ささやななえの夫として、晩年の彼女が認知症を発症し介護付き老人ホームに入った結果、「ストレスなしになったらしく、煙草も酒も不要になり、今は、穏やかです。まだ僕の顔は忘れてなく、会うとニッコリ」と書いてたのにもなんだか救われました。

新潮社 週刊新潮
2024年7月11日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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