『火の鳥 いのちの物語』
- 著者
- 手塚治虫 [著]/鈴木まもる [著、イラスト]
- 出版社
- 金の星社
- ジャンル
- 文学/日本文学、小説・物語
- ISBN
- 9784323024929
- 発売日
- 2024/04/27
- 価格
- 1,540円(税込)
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【聞きたい。】鈴木まもるさん 『火の鳥 いのちの物語』
[文] 斎藤浩(産経新聞社)
■先生が伝えたい「命」描いた
漫画家の手塚治虫(1928~89年)の長編大作『火の鳥』は、月刊誌『漫画少年』の昭和29(1954)年7月号から連載が始まった。連載開始70周年の記念出版で初めて絵本化され、その文と絵を手掛けた。
ラジオ出演がきっかけだった。子供のころからの手塚ファンであることなどを話したのを偶然、手塚プロダクションの関係者が聞いていた。小さい子供にも分かるようにと絵本の話が進んだ。
『鉄腕アトム』が大好きで漫画家を目指していた中学生のころ、『火の鳥』に出会った。「壮大な世界観と生命への賛歌に心を打たれ、何度読んだか分からない」。テーマや物語の組み立て、コマ割りの使い方など、絵本作りでも影響を受けてきた。
憧れの手塚の代表作。その絵本化の提案に「椅子からひっくり返りそうになった」。驚きの後は重圧。原作は人間の生と死の輪廻(りんね)がテーマで、黎明(れいめい)編や宇宙編などスケールが大きい。手塚はライフワークとして取り組んだが、亡くなって未完のままだ。「手塚先生や火の鳥の多くのファンに満足してもらえるのか。最初は相当心が乱れました」
鳥の巣を描き始めて冷静になれた。巣で休む生まれ変わった小さな火の鳥をスケッチすると、周囲に鳥や動物が集まる様子が自然に描けた。原作の難しい人間ドラマを絵本にするのではなく、生きることや死んだあとのこと、地球の大切さを火の鳥が語りかける。「それなら、手塚先生が一番伝えたい命のことを書けるんじゃないか」。そう気が付いた後は、楽しく描けた。
昭和61年、東京から静岡・伊豆半島の婆娑羅山への移住を機に鳥の巣研究と古巣収集を続ける。人間のように親から教わらなくても鳥は巧みに巣作りをする。そこに生命の不思議さを感じる。鳥の巣への相当なこだわりがあるからこそ、絵本化の際も着目できた。「鳥の巣は一番大切なものを守り育てる生命の入れ物。私が絵本に描いた鳥の巣への思いは、手塚先生が火の鳥で伝えたい『命』と、そんなに違っていないと思う」
もし手塚が絵本を読んだら何と言ってほしいか。こう質問をすると、「いいんじゃない、と言ってくれるといいな」と笑った。(金の星社・1540円)
斎藤浩
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【プロフィル】鈴木まもる
すずき・まもる 画家、絵本作家。昭和27年、東京都生まれ。『ニワシドリのひみつ』で第62回産経児童出版文化賞JR賞を受賞。