『かくして、死刑は執行停止される』菊田幸一著

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かくして、死刑は執行停止される

『かくして、死刑は執行停止される』

著者
菊田 幸一 [著]
出版社
作品社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784867930113
発売日
2024/02/28
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『かくして、死刑は執行停止される』菊田幸一著

[レビュアー] 郷原佳以(仏文学者・東京大教授)

法の下に命奪わぬ決意

 表題はフランスの死刑廃止の立役者ロベール・バダンテールがその経緯を振り返った名著『そして、死刑は廃止された』のもじりだ。フランスは西欧で最も遅く、1981年に死刑を廃止した。当時、世論の過半数は死刑を支持していた。それから40年経(た)っても日本は死刑を維持している。89年に死刑廃止条約を採択した国連から、日本は、死刑廃止に向けて努力するようにという勧告を受けている。しかし、政府は世論を理由に「廃止は時期尚早」とかわしてきた。こうした現状に対し、死刑廃止を夢ではなく現実にするために何ができるかを考え抜き、奔走してきたのが本書の著者、菊田幸一だ。死刑廃止のために人生を捧(ささ)げてきた刑法学者である。90歳を迎えんとする今も、「残りの命を苛烈なる軌跡のために捧げよう」と決意している。

 日本の死刑廃止運動を牽(けん)引(いん)してきたのは、89年の国連の死刑廃止条約成立を機に安田好弘弁護士が設立した市民団体、フォーラム90である。菊田は安田と共にその中心人物だ。本書を読むと、フォーラム90による90年代の死刑廃止運動がいかに活発だったかがわかる。3年間にわたる死刑執行停止も実現した。ところが93年、後藤田法相のもと再び死刑執行がなされる。それを受けて菊田はハンストを行う。この頃から菊田は、死刑廃止を実現するには、つまり、まず執行停止状態にするには、現状から一挙に制度の廃止を求めるよりも、代替としての終身刑の導入を促すのが近道ではないかと考えるようになる。翌94年に超党派の「死刑廃止を推進する議員連盟」が結成されると、終身刑導入案をめぐって議員らと協議を重ねる。しかし、フォーラム90には終身刑導入への反対の声も多く、菊田は運動内の異端的存在と自覚する。それでも、一刻も早く、国家が法の下に国民の生命を奪うことのない状態を作り出すために、菊田は政策的手段を追求するのだ。全(ぜん)篇(ぺん)が切迫感に満ちている。(作品社、2640円)

読売新聞
2024年6月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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