『ずっと、ずっと帰りを待っていました 「沖縄戦」指揮官と遺族の往復書簡』浜田哲二/浜田律子著

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『ずっと、ずっと帰りを待っていました 「沖縄戦」指揮官と遺族の往復書簡』浜田哲二/浜田律子著

[レビュアー] 鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)

遺族からの手紙返す旅

 20万人以上が犠牲となった沖縄戦では、今も2000以上の遺骨が未収骨だ。本書の著者は、四半世紀前から戦没者の遺骨収集と遺族への返還をフリーで行う元新聞記者の夫婦である。

 二人が、24歳で沖縄戦の大隊長となりながら、9割の兵士の戦死に直面した伊東孝一さん(2020年、99歳で死去)に出会ったのは2016年、兵士の遺留品の確認のためだった。それがあることを機に、終戦直後、遺族たちへ「詫(わ)び状」を送ったという伊東より、「遺族からの返信」356通の束を託される。

 本書は、圧倒的な兵力の差による悲惨な戦闘と戦没者の最期の姿を伊東氏の手記などから時系列で再現、要所要所に遺族からの返信を掲載する。父を知らぬ子を育てる妻の苦労、「歓呼」から一転、軍が白眼視される戦後の風潮を嘆く親の声……。手紙はどれも胸に迫る。

 差出人の了解がなければ手紙は公表できない。そこで夫婦は、学生ボランティアらの協力も得ながら送り主やその家族に手紙を返還する旅を手弁当で始める。転居や個人情報保護の壁、新手の振り込め詐欺ではないかという疑惑を乗り越え、4分の1の手紙が戦没者の子どもや妹、甥(おい)など遺族のもとに帰った。

 夫の戦死後、その弟と再婚した母親に不信感を抱いていたという長男は、今は亡き母親が、伊東氏に何通も送った手紙で、秘めていた夫への熱い思いをつづるさまを知り、わだかまりが消える。戦争を知らない世代が、親の世代の戦争の労苦を、時を超え、不意に届いた手紙によって知る瞬間には様々なドラマがある。

 この活動中も夫婦は遺骨発掘を続け、2019年に発掘した遺骨はDNA鑑定の結果、手紙を返還した伊東大隊の兵士だったことが判明。21年春に家族のもとへ帰ることができた。

 埋もれた事実を発掘するのは第一歩。それをしっかりと伝えることの大切さを教えるノンフィクションである。(新潮社、1760円)

読売新聞
2024年6月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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