無意識に人を傷つけてきた自分に気づいたときの後悔…ブルーな過去と向き合う浅野いにおとカツセマサヒコが語る

対談・鼎談

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ブルーマリッジ

『ブルーマリッジ』

著者
カツセマサヒコ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103556916
発売日
2024/06/27
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

浅野いにお×カツセマサヒコ・対談「男子ブルーを語る」

[文] 新潮社

おじさんが一番おもしろい


発売中の『ブルーマリッジ』(新潮社)

浅野 僕も好きです。今一番おもしろいんですよ、おじさんが。なんでかな?(笑) 自分の40代が思った以上にエキサイティングで、こんなに無頼な感じで人は生きていけるんだと知ったんです。40歳過ぎて、納得と、覚悟ができてくる。ろくでもない人生だということを受け容れるようになるし、惨めに野垂れ死んでもまぁ仕方ないかなって思える。それが似合う人になろうみたいな感じになってくる。

カツセ ある種の諦念でしょうか。

浅野 ですね、自分そのものが美しくないっていうことを自覚する感じ(笑)。笑えてくるというか、間抜けな感じが楽みたいな。格好つける必要もないし。そうなって来ると楽なんだけど、30代はきつかった。自分の存在意義とか価値は何だろうとか、他人から自分が求められているかとか、あやふやな自分がいて。

カツセ 作品のキャラクターにも、それは投影されていますか?

浅野 そう思いますね。「同情されなくてもいいし」っていうキャラクターを描けるようになった。決して好かれなくてもいいという感覚が、一つの縛りから解放されている感じがする。創作物のキャラクターって、基本的には好かれるように描かなければいけないんですけど。

カツセ それはよく聞きます。

浅野 好感度って自分でどうとでも左右できると思うんですよね。好かれる人物の描き方にはパターンがあるので。ただ、それが本当に嫌で(笑)。何でそんなに好かれなきゃいけないの? 何でそんなにいい人ぶらなきゃいけないの? って。おじさんキャラはそこから解放されているというか、最初からそんなの期待されていない。好かれはしないかもしれないし、うざったいかもしれないけど、人間として良いキャラクターを作れる余地があるのが、おじさんなんです。

カツセ テルミのうざさは良いですよね(笑)。

浅野 昔だったらこういう説教臭いキャラクターってダメかなと思ってたんですけど、おじさんってそういうもんだからしょうがないじゃないかって(笑)。

カツセ そういえば『MUJINA……』の主人公のウブメはアラサーですよね。今までの主人公よりも年齢が上で、10代の保護者ポジション。全員はぐれ者なんだけど疑似家族みたいになっていて、それが新鮮でおもしろいです。

浅野 まさに疑似家族ものを描きたかったんです。僕自身が一般的な夫婦生活とか家族というものを築けなかった側の人間だから、もうそれしか描くことがない、っていう……(笑)。本当はこの作品の前に描こうと思った別の漫画があったんですが、全ボツにしたんです。おっさんが主人公の疑似家族もので、その骨格が『MUJINA……』には残っているんですよ。なので、カツセさんのように10年以上結婚生活をされているというのは、僕にはわからないことなんです。

カツセ 夫婦観は、当事者としても変化していってます。今は、家事・育児をどっちがやるかというのを、その時の状況で臨機応変に動いていて。過酷な時代で生き残るために背中を預けているパートナーという感覚です。20代の頃に見てたゼクシィ的な華やかさはイベント単位でしか起きなくて、日常は地味だし、お金も絡んでドライだし、毎日がおもしろい訳ではない。こうなると恋愛延長線上じゃなくても成立するなという、自分の中での冷めた見方もある。だから、離婚率が増えたというのもわかるんです。

浅野 恋愛をして、そのゴールとして結婚があるという形が破綻してきているのかなと。経済的な部分で結婚をポジティブにとらえられないし、傷つけるのも傷つけられるのも嫌だから、人にコミットしないという選択になるのも非常に合理的。

カツセ そういう人が増えていますよね。

新潮社 波
2024年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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