無意識に人を傷つけてきた自分に気づいたときの後悔…ブルーな過去と向き合う浅野いにおとカツセマサヒコが語る

対談・鼎談

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ブルーマリッジ

『ブルーマリッジ』

著者
カツセマサヒコ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103556916
発売日
2024/06/27
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

浅野いにお×カツセマサヒコ・対談「男子ブルーを語る」

[文] 新潮社

過去の自分と向き合う


白いヴェールのようなカバーを外すと、「結婚の正体」を表現した本体が現れる

浅野 『ブルーマリッジ』では、人を傷つけることに対して自覚があるのか、無自覚かということも物語上重要になってくる。自覚があって反省することができれば、本人が永遠に苦しみ続けるのは自由だけれど、周りの人間が必要以上に責め続けることは話が違うように思います。昔やってしまったこととか、言ってしまったことで未だに残り続けてることってあります?

カツセ ありますね。誰かがいじめられているのを傍観してただけだったこととか、昔の恋人に言った発言があまりにもひどかったとか。でも、求められてもいないのに今その時の被害者に会いに行って謝ったとて、自己満足でしかなく、それは自分の中の過去を払拭したいだけの傲慢な行動に思います。そうではなく、加害者は加害に加担してしまった事実を忘れないで反省し続ける気持ちを持つしかないなと思っているんです。こう思うのは自分だけなのかという疑問もあり、それを世の中の人に聞きたくて小説にしたのかもしれません。

浅野 僕は自覚のある加害ですが、10代の時に、友達に対して明らかに自分が悪いことをして、全力で土下座して謝ったことがあります。それで許されたという訳ではないけど、やれることはやったし、相手から今後何を言われてもそれは自業自得だと思いました。未だにそれは引っかかっている。でも、一度してしまったことはもう取り返しようがないんですよね。ただ、もう二度とそういうことするのはやめようと思った。

カツセ こういう話を物語に変換していく上で、リアリティがあるかどうか、出てくる人物が都合の良いキャラクターになっていないか、実際に似たような被害に遭った方への二次加害に繋がらないか、ということにはとても気を遣いました。

浅野 リアリティラインは全部僕には納得できるもので、不自然さというものは一切感じなかったですね。

カツセ わあ、よかったです。安心しました。

浅野 話の都合で出てくるキャラクターの使い方に気を遣うのはよくわかりますし、必要なことですよね。でも、僕はあまり気にしないようにしています。「いかにもおっさんが考えた女子高生だな」とか言われることはありますよ。自分は若者じゃないから、描いてて確信はないですよ、それは。『デデデデ』でいうと、おんたんっていうツインテールのキャラクターがいて、描いてる時は「支離滅裂で変だしリアリティがない」って言われていました。でも、あのちゃんっていう実物がいたことで、いたじゃん! ってなる。

カツセ あのちゃんが証明するという説得力!(笑) ちなみにですが、雨宮の婚約者の「翠さん」という名前は、『おやすみプンプン』の翠さんの影響で命名しました。主人公が憧れる理想的な女性というイメージで書いたのですけど、僕はプンプンの翠さんのファンだったので、ぴったりかなと。

浅野 そうだったんですね、同じ字だなとは思っていたんですけど、良い名前ですよね(笑)。キャラクターと合っていると思いました。二人の話も含めて、きれいごとにしていない感じが良かったです。20代と50代の話だから、30代、40代の人が読むと、どっちにも身に覚えのある状態で読める。僕は両方のキャラクターに気持ちを寄り添わせながら読むことができたので、すごく良い作品だと思いました。

カツセ 一度書き上げてから、一年間ずっと改稿してたんです。その間、編集者二人からひたすら殴られ続けるサンドバッグ状態でした(笑)。

浅野 それは大変だったと思いますが、それによって完成度が上がったのでは?

カツセ そうですね、おかげで今日浅野さんから良い感想をお聞きできたので、ようやく今、報われた気がしました。

 ***

カツセマサヒコ
Webライターとして活動しながら2020年『明け方の若者たち』で小説家デビュー。2021年、川谷絵音率いるバンドindigo la Endの楽曲を元にした小説『夜行秘密』を書き下ろし。『ブルーマリッジ』が三作目の長編小説。

浅野いにお
1980年茨城県生まれ。1998年『菊池それはちょっとやりすぎだ!!』でデビュー。代表作に『おやすみプンプン』『零落』などがあり、『ソラニン』『うみべの女の子』は実写映画化もされた。2014年から2022年2月まで週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』を連載し、第66回小学館漫画賞一般向け部門と第25回文化庁メディア芸術祭マンガ部門・優勝賞を受賞した。​

新潮社 波
2024年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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