金儲けに押し潰されていくニュース。報道は影響力を失ってしまったのか?

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ジャーナリストの条件

『ジャーナリストの条件』

著者
ビル・コバッチ [著]/トム・ローゼンスティール [著]/澤 康臣 [訳]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784105074111
発売日
2024/04/25
価格
2,750円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

金儲けに押し潰されていくニュース。報道は影響力を失ってしまったのか?

[レビュアー] 篠原知存(ライター)

 紹介されていた数字が衝撃的だった。二〇二〇年の時点で報道機関を「大いに」あるいは「かなり」信頼していると答えた米国人の割合は四〇%だった。ただし〈共和党支持者で見るとこの数字はわずか一〇%になる〉。一方で民主党支持者はなんと七三%が信頼していた、という。

 社会分断の深刻さがうかがえるし、共和党のトランプ前大統領が報道機関を「国民の敵」「悪の権化」「フェイクニュース」などと罵倒し続けていた時期とはいえ、報道に対する信頼がそこまで極端に揺らいだというのは驚きでしかない(しかも「またトラ」とか来そうだし)。

 話は対岸の火事ではないかもしれない。日本でも「マスゴミ」などとメディアに罵詈雑言を浴びせる人がいる。多くの人々がSNSなどのデジタルツールを使って手軽に情報を受け取ることや発信することができるようになって、ニュースを報じるテレビや新聞、週刊誌の存在感が低下しているのは間違いない。

 報道機関は影響力を失ってしまったのか。ニュースは金儲けやプロパガンダに押し潰されていくのか。そんなことはないはず。ジャーナリズムは民主主義のために必要だし、いまこそ質を向上させるチャンスなのだ、と本書は訴える。

 ネットを通じて得る情報は自分の立場や考えを肯定するものばかりに偏りがち。そんな中で、より多くの人に正確な情報を提供し、前向きなコミュニケーションをうながせるような良質な報道は、いったいどうすれば実現できるのか。

 植民地時代以来の米国報道史を振り返りつつ、ジャーナリズムの目的や原則、目指すべき道を示す。簡潔ながら豊富な具体例が読みどころ。地域住民の声を集めることから始まる調査報道など、新しいジャーナリズムのかたちは示唆に富む。

 ジャーナリストや記者に限らず、インフルエンサーなどメディアで発信するすべての人々に必読の書。

新潮社 週刊新潮
2024年7月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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