えっ、死んだ人間に青春があるのか? 破壊的デビュー作、刮目の新人爆誕!!

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死んだ山田と教室

『死んだ山田と教室』

著者
金子 玲介 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065348314
発売日
2024/05/15
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

えっ、死んだ人間に青春があるのか? 破壊的デビュー作、刮目の新人爆誕!!

[レビュアー] 杉江由次(本の雑誌社)

 じわじわと実力をあげ、世に広まっていく作家もいれば、彗星の如く傑作を生み出し、あっという間に多くの人に読まれる作家もいる。最近でいえばデビュー作『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)で二〇二四年本屋大賞を受賞した宮島未奈が後者の代表であろう。ただし、そんな作家はおよそ十年にひとりしか現れないのが常識だったのだけれど、なんと二年連続で恐るべき新人が登場したではないか。

 その名は金子玲介という。第65回メフィスト賞を受賞し、五月に『死んだ山田と教室』でデビューしたのだが、この面白さに度肝を抜かれた。

 タイトルにある通り、主人公の山田は物語の幕開けとともに交通事故で死んでいる。山田は穂木高二年E組の中心人物で、みんなから愛される人気者だった。山田を失った教室は暗く沈んでおり、心配した担任の花浦は気分転換に席替えを提案するが、生徒たちは興味を示さない。静まり返る教室。そのときなんと教室のスピーカーから山田の声が聞こえてくる……。

 これはホラー? それともSF? あるいはファンタジー? とドキドキしながら読み進めると、なんと青春小説なのだった! えっ? 死んだ人間に青春があるのか?と思われるだろうが、それがあるのである。しかもド直球の青春小説なのだ。

 声だけになった山田の指南により最強の配置の席替えをし、山田の存在をクラスの秘密にするために合言葉が決められる。

 それがもう十代男子のおバカさ炸裂でくだらないのである。そのくだらなさは、ほぼ全編にわたって貫かれており、いつの間にか読者である私もすっかり二年E組の一員となり、爆笑しているのだった。

 しかし、くだらない話を書くのはとても難しい。本の中で山田も語っているが、「自然発生的にしないと、なんか白々しくて盛り上がらない」のだ。この才能たるや驚異的である。

 さらに残りの部分は一転してシリアスなのだった。山田の過去や孤独が示され、ぎゅっと胸が締め付けられる。そのバランスが絶妙だ。

 時が過ぎても卒業できない山田。教室に取り残される山田。果たして山田はどうなっていくのか。

 それは読んでのお楽しみだが、なんと最後のページに次回作の紹介が掲載されているのだった。そこには「『死んだ石井の大群』2024年夏発売予定」とある。これはいったい?!

 成瀬の次は山田だ! さらに石井か?

新潮社 週刊新潮
2024年7月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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