<書評>『あの素晴しい日々 加藤和彦、「加藤和彦」を語る』加藤和彦・前田祥丈(よしたけ) 著

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あの素晴しい日々 加藤和彦、「加藤和彦」を語る

『あの素晴しい日々 加藤和彦、「加藤和彦」を語る』

著者
加藤和彦 [著]/前田祥丈 [著]
出版社
百年舎
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784991203930
発売日
2024/05/07
価格
3,300円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『あの素晴しい日々 加藤和彦、「加藤和彦」を語る』加藤和彦・前田祥丈(よしたけ) 著

[レビュアー] 湯浅学

◆音楽史における位置 立体的に

 1993年に行われた加藤和彦へのインタビューを軸に、彼の歩みをわかりやすく伝えている好著。当初はインタビュー後ほどなく刊行の予定があったものの、諸般の事情でかなわず、2013年に『エゴ 加藤和彦、加藤和彦を語る』と題されて出版されていた。11年を経ての再出版(改題されている)は、加藤のドキュメンタリー映画『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』の公開に合わせてのこと。映画内の加藤の関係者からの発言を補完し、時代背景をより具体的に知ることができる。本書と映画、そしてもちろん加藤の残した作品の数々を聴き込むことで、他界から15年を経た今、加藤和彦という人間の、特殊なおもしろさがこれまで以上に立体感を増して現れる。

 本書の著者(インタビュアー)の前田祥丈は加藤とほぼ同年代(前田が1歳年下)。加藤の作品を1967年末の「帰って来たヨッパライ」以降、リアルタイムで体験してきた人物だ。追体験ではないからこそ、加藤がその時々で生み出し放出してきた作品の、芳香あるいは臭気、エネルギーを体感として今も保持していることが、本書を特別なものにしている。加藤の音楽の受け手でありつづけたことの喜びといくばくかの哀感によって本書は編み上げられている。音楽史における加藤の位置付けを、時代時代で明確にすること。周辺の動きを冷静に記述すること。長年音楽シーンを見続けてきた前田の矜持(きようじ)が随所で感じ取れる。

 加藤の漂流といいたくなるような歩みが、その実、漠然とした、しかし類稀(たぐいまれ)な創造力と自信に支えられていたことがわかる。加藤は生涯得体(えたい)の知れない存在でありつづけた、と私は思っているが、それこそが創作の基本だろう、と加藤は告げている。

 音楽制作の内実、外圧との関わり、実は落語好き、生活と創作の関係。加藤の洒脱(しゃだつ)な存在感が、いかに天然なものだったか。本能こそが信じるに足る唯一のもの。そんなことさえ感じられる。調査と研究の書物とはまた別の、日本ポップス伝。

(牧村憲一監修、百年舎・3300円)

加藤和彦 1947~2009年。

前田祥丈 1948年生まれ。

◆もう一冊

CDブック『今語る あの時 あの歌 きたやまおさむ』前田祥丈著(アートデイズ)

中日新聞 東京新聞
2024年6月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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