『関白秀吉の九州一統』
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『関白秀吉の九州一統』中野等著
[レビュアー] 岡本隆司(歴史学者・早稲田大教授)
世界と相対 一大転機
時代劇・大ドラマの定番といえば戦国時代、とりわけ天下取りの主役だった信長・秀吉・家康は、くりかえし番組の放映がある。世上の関心も高い。
実際に統一をはたし、ライバル関係になった後二者の生涯は、なかんづくドラマチック、そのため何度も登場している。少し以前にも番組があったし、遠からずまた放映するらしい。
それだけにドラマの主要な舞台は畿内以東、秀吉の上方と家康の関東といった構図で、日本列島の地政学にも合致する。
ただあまのじゃくな東洋史家は、これでは物足らない。列島の政治的統一ばかりの時代ではなく、日本がいわゆる「鎖国」になって、世界との向き合い方を根本的に変える一大転機だからである。
その舞台こそ九州。シナ海に面して、朝鮮半島・中国大陸との往来が古来、盛んだった。九州を中央政権がいかに支配統制するかは、「鎖国」の成否・日本の運命を分けたはずである。
ところが「『九州平定』の研究史は如(い)何(か)にも薄」い。そこで著者がものしたのが、一般にも読める九州一統の専著である。評者にとっては、渇望の一書だといってよい。
叙述は地味ながら着実、秀吉政権の九州「仕置き」を、日向に至るまで九州くまなく周到に跡づけ、史料を引きつつ、くわしい注釈も備わる。一般の歴史ファンにはやや難しく、また煩雑かもしれないけれど、それだけ信頼に足ることはまちがいない。
一統の結果、九州の政治社会秩序は一新する。各地の土着勢力圧服が、いわゆる「伴(バ)天(テ)連(レン)追放令」にくわえ、「刀狩」令・「賊船停(ちょう)止(じ)」令を発布せしめ、朝鮮出兵をも準備した。
「九州平定」はやはり世界史的・国際的な問題なのであり、本書はその基礎的な知見を提供してくれる。読破のうえは、九州を舞台とするグローバルな大河ドラマも期待したい。