『中世ネコのくらし 装飾写本でたどる』キャスリーン・ウォーカー=ミークル著

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中世ネコのくらし 装飾写本でたどる

『中世ネコのくらし 装飾写本でたどる』

著者
Kathleen Walker-Meikle [著]/堀口容子 [訳]
出版社
美術出版社
ジャンル
芸術・生活/絵画・彫刻
ISBN
9784568105759
発売日
2024/03/06
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『中世ネコのくらし 装飾写本でたどる』キャスリーン・ウォーカー=ミークル著

[レビュアー] 小池寿子(美術史家・国学院大教授)

 ヨーロッパ中世のネコはどのような暮らしぶりだったのだろう。ネコ好きの心をくすぐる本書は、写本に描かれたネコたちを紹介する珍しい一冊。狩猟を糧とするヨーロッパでは馬とイヌは大切にされ、イヌは食卓に上ることさえできた。

 一方ネコは、悪魔の化身で謎めいた存在とされるが、本書では愉快で時に残虐な悲喜こもごもの生き様が紹介される。

 写本とは紙による印刷が発達する以前、羊や山(や)羊(ぎ)を材料にした羊皮紙などに手書きされた本である。文字情報だけでなく、挿絵で彩られ、修道院や王侯貴族らが祈りの時間などに頁(ページ)を開いた。通常、画面中央には聖母子などキリスト教の主題が配置されるが、ネコたちは欄外や飾り文字の中に姿を見せる。いわゆる周縁に棲(せい)息(そく)しているのだ。

 しかし、この周縁こそが写本装飾の面白さでもある。擬人化されたネコが、両手でネズミを掴(つか)んだり、修道女の糸巻きを手伝ったり。周縁にこそ笑いと諧(かい)謔(ぎゃく)があり、それを密(ひそ)かに楽しんだ読書の世界を垣間見ることができる。写本研究家のユニークな発想によるネコ本だ。堀口容子訳。(美術出版社、2640円)

読売新聞
2024年6月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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