『TOKYOレトロ探訪』
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『TOKYOレトロ探訪』レトロイズム編著
[レビュアー] 遠藤秀紀(解剖学者・東京大教授)
写真で昭和の情景を伝える本らしい。「令和を生きるヒントに」という前書きに、腹を立てる。昭和は(終わりの三分の一でよければ)、俺の生きた時代だ。俺の大事な昭和を、令和ごときのヒントにされてたまるか!
カフェ、レコード店、食堂、古道具屋、建築物など、素敵な写真が詰まっている。黙って見ていればいいものを、被写体のいくつかに、また腹を立てる。本当の昭和はこんなもんじゃないぞ、と。
「ん? 待てよ」……インタビューに登場する阪田マリン、半田健人、伊藤かずえの年齢層の違う三人が、喜んで昭和を味わっているではないか。俺も見習うか。
幕末も明治も大正も、過去として本物以上に誇張され始めたとき、それは本当の過去に去ったはずだ。愛する昭和がそこへ足を踏み入れた瞬間を頁(ページ)に眺める俺は、実は幸せ者なのか?
「令和よ、まだまだ頭が高い」と叱りつつ、しばし俺は矛を収めた。(朝日新聞出版、1760円)