『赤い星々は沈まない』
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「性」の疼きを抱えた女の声が聞こえる「R-18文学賞」大賞受賞作!
[レビュアー] 中江有里(女優・作家)
「生」と「性」は切り離せない。
しかし「生」ほど「性」の話はあからさまにできない。特に「性」や「性的」なものは年を重ねるにつれ遠ざかる一方にある。
本書に収録された五篇からは、背景や年齢は違えど「性」の悩みや疼きを抱えた女たちの声が聞こえてくる。
表題作は老人介護施設が舞台。看護師ミサは、男性入居者のベッドに裸でもぐり込んだ入居者のキヌ子を発見する。若き日は「良妻賢母」だったらしいが、今は悪びれることなく欲望に忠実なキヌ子。面会に来た息子の恥ずかしがりように同情しながらも、ミサ自身は夫とセックスレスであることに寂しさを感じている。
さらに切実なのは「soir rouge」の主人公・弥衣子。まもなく還暦を迎える彼女だが、夫は家を出て、娘も自活している。同じ年の真紀に年上の恋人ができたのに刺激され、セラピストの男性ソアによる「膣活」を始める。これまでの焦燥感を埋め合わせてもらった弥衣子は、ソアにどっぷりハマってしまう。
ソアとの時間はつかの間の夢だ。醒めない夢はない、そうわかっていても、夢を見ずにはいられないのが人間。ソアの存在が弥衣子の「性」が盛んだったころへ時を巻き戻した。
誰かに求められた実感は「性」のみでなく、そのまま「生」に直結する感情だ。
先は短いとわかっているから、自分の火を長く灯したいのだろうか。一度燃えたら、コントロールが利かなくなるのが厄介だけど、燃やし続けられる限り燃やしたい。命と同じく。
登場人物は、どこかで繋がっていて、看護師ミサの夫・裕也は最終話「肉桂(ニッキ)のあと味」にも登場する。主人公は五十歳を過ぎて男性経験のない明日香。弟の裕也から夫婦関係について相談され、答えに窮する。
人に言えない「性」の悩みは多種多彩。湿気を帯びた題材をサラリと、暗くならずに描いている。第十八回「R-18文学賞」大賞受賞作。