『ATTENTION SPAN(アテンション・スパン)』
- 著者
- グロリア・マーク [著]/依田卓巳 [訳]
- 出版社
- 日経BP 日本経済新聞出版
- ジャンル
- 社会科学/経営
- ISBN
- 9784296117338
- 発売日
- 2024/03/27
- 価格
- 2,420円(税込)
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<書評>『ATTENTION SPAN(アテンション・スパン) デジタル時代の「集中力」の科学』グロリア・マーク 著
[レビュアー] 近藤雄生(ライター)
◆「マルチタスク」で脳疲弊
パソコンに向かって仕事をしていると、時に自分の集中力のなさに愕然(がくぜん)とする。すぐに疲れ、SNSなど楽なことへと逃げたくなる。どうにかならないものだろうかと長く思い続けてきた中で、本書に出合った。
著者は人間の集中とデジタル機器の関係などについて長く研究してきた心理学者だ。著者自身、集中できないという問題を抱え、同僚もみな一様にそうらしいと知って、このテーマを研究するようになったという。デジタル機器に囲まれて生きる現代人が共通に抱える集中力の問題とはいかなるものか。その研究成果を本書にまとめた。
第一の問題は、私たちが日々処理を迫られる情報やメッセージが多すぎることだ。加えて、各種通知が止めどなく届き、興味を持ちやすい情報が次々に提示される仕組みにさらされていることである。その結果、複数の仕事を同時にこなす「マルチタスク」に身を投じざるを得なくなり、またタスクの頻繁な中断を余儀なくされる。それが私たちの集中力を大きく低下させると言う。著者の研究によれば、私たちが1日にメールをチェックする回数は平均77回にも及び、デジタル機器を使う際の集中時間(アテンション・スパン)は47秒しか続かなくなっているというのだ。
著者は、集中のタイプや理論的枠組みを明確にするとともに、情報を処理するために必要な集中力の蓄えである「認知リソース」の補充が重要であると強調する。そして現代のデジタル環境がいかに認知リソースを枯渇させる要因に溢(あふ)れているかを明らかにする。どうすればいいのか。その対処法もまた著者は提示するが、その上で、著者は言うのだ。私たちは生産性の増大よりも幸福の増大を目指すべきなのだと。集中の問題に向き合うことは、生き方そのものに向き合うことだとも気づかされた。
著者の結論に意外性は多くはないが、問題の本質や核心を理解することは問題解決への第一歩となる。今日も私は、著者が薦める短い散歩を取り入れた。するとふと、本稿の結びが頭に浮かんだ。
(依田卓巳訳、日本経済新聞出版・2420円)
米国の心理学者、情報科学者。本書が初の著作。
◆もう一冊
『最強脳 「スマホ脳」ハンセン先生の特別授業』A・ハンセン著、久山葉子訳(新潮新書)