『覇権国家アメリカ「対中強硬」の深淵 米中「新冷戦」構造と高まる台湾有事リスク』園田耕司著

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覇権国家アメリカ「対中強硬」の深淵

『覇権国家アメリカ「対中強硬」の深淵』

著者
園田耕司 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784022519733
発売日
2024/03/19
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『覇権国家アメリカ「対中強硬」の深淵 米中「新冷戦」構造と高まる台湾有事リスク』園田耕司著

[レビュアー] 櫻川昌哉(経済学者・慶応大教授)

台湾有事の可能性分析

 国際政治でよく引用される「トゥキディデスの罠(わな)」は、新興勢力が台頭し、それまでの支配勢力と拮抗(きっこう)するようになると、戦争が起きる危険性が高まると指摘する。本書は、米中の覇権対立の基本的な構造を探り、はたして台湾有事が起きるのかその可能性を分析している。米中対立を既存の覇権大国と潜在的覇権国の争いと捉え、その発火点を台湾問題と位置づける。

 ニクソン訪中によって中国を国際社会に復帰させ、その後の関与政策で国力回復の機会を与えたにもかかわらず、米国の意図通りにならなかったことが、現在の米中対立につながったと手厳しい。

 米国に挑戦的な姿勢をとる習近平の発言の真意を読み解くとき、外国勢力の侵略を受け続けた屈辱の歴史を忘れていないことに注意すべきとする。中国は、アヘン戦争以来、共産主義国家建設に至るまでの約1世紀を「100年の国恥」と捉えている。

 仮に台湾有事となった場合、著者はシナリオをいくつか提示している。中国には台湾海峡を越えて台湾に上陸し、占領するだけの軍事力は無いと喝破する。

 可能性が最も高いシナリオは、軍艦で台湾を包囲して海上封鎖によって経済的に追い詰めることだと説く。

 世界最先端の技術を持つ半導体製造企業であるTSMCが台湾に存在していることが事態を見極める鍵だと評者は思う。台湾が経済封鎖を受ければ、半導体のサプライチェーンは崩壊し、世界的な株価大暴落、さらには世界的大不況が生じるだろう。大打撃を受けるのは米国ではなく、住宅バブルが崩壊し、金融市場が不安定化している中国の方である。

 習近平は台湾統一を中国の夢であるとみなし、自らを歴史的な英雄に仕立て上げる野望を抱いているが、経済危機のリスクを冒してまで海上封鎖に踏み切る勇気を持てるだろうか。とすると、“台湾有事はない”と思いたくなる。

 国際政治がシナリオ通りに進むかどうかは不明だが、本書は、台湾有事を論理的に思考する方法論を提供してくれる。(朝日新聞出版、2200円)

読売新聞
2024年6月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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