『正力ドームVS.NHKタワー』大澤昭彦著

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正力ドームvs.NHKタワー:幻の巨大建築抗争史

『正力ドームvs.NHKタワー:幻の巨大建築抗争史』

著者
大澤昭彦 [著]
出版社
新潮社
ISBN
9784106039065
発売日
2024/02/21
価格
1,980円(税込)

『正力ドームVS.NHKタワー』大澤昭彦著

[レビュアー] 鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)

 日本初のテレビ放送は1953年2月。NHKが実現したが、戦後の東京で最初の巨大建造物は、その半年後、民間初の放送を始めた日本テレビの電波塔だった。それまで都内で最も高い建造物は高さ65・45メートルの国会議事堂。154メートルの鉄塔は東京を一望でき、展望台は観光名所になった。

 本書は、これに始まる巨大タワーの開発競争や大衆の野球人気、スポーツへの憧れをバネにしたドーム球場が実現するまでを、都市計画が専門の学者が臨場感をもって描き出す。

 莫大(ばくだい)な資金、耐震設計など巨大建築に必要なのは数あれど、広大な土地も欠かせない。そこで夢追い人たちが目をつけたのは、戦後の食糧難解消のために田んぼに流用され、草が伸び放題になっていた不忍池などの公園、緑地だった。しかし住民らの反発もあり、彼らは、戦後に身分を剥奪(はくだつ)された旧皇族や華族の緑豊かな敷地の開発を狙う。

 本書は、日本テレビを創り、世界初、日本一を夢みた正力松太郎ら昭和の傑物たちの抗争史だが、特権階級に代わって戦後の主役となった大衆による、新東京構想ドラマとしても読める。(新潮選書、1980円)

読売新聞
2024年6月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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