「グミ」の大ブレイクからみえてきた!時代の変化とヒットの法則

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

グミがわかればヒットの法則がわかる

『グミがわかればヒットの法則がわかる』

著者
白鳥和生 [著]
出版社
プレジデント社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784833425247
発売日
2024/04/26
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【毎日書評】「グミ」の大ブレイクからみえてきた!時代の変化とヒットの法則

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

コロナ禍のさなかにあたる2021年に、「グミ」がチューインガムの市場規模を上回ったのだそうです。流通ジャーナリストである『グミがわかればヒットの法則がわかる』(白鳥和生 著、プレジデント社)の著者によれば、これは飲食料品の世界で四半世紀ぶりの“大逆転劇”

たしかに最近はコンビニの棚でガムが脇(下段)に追いやられ、「ゴールデンゾーン」と呼ばれる目線の位置にはさまざまなグミが並んでいたりもします。パッケージが色鮮やかで目立つこともあって、男女を問わず自然と手が伸びてしまうのかもしれません。

グミという食べ物は、考えれば考えるほど、その摩訶不思議さ、秘めたる“謎”に迫りたくなる。

本書はさまざまな調査データを読み解き、メーカーや卸、小売り、マーケティングリサーチ企業などの関係者への取材から、グミがなぜ、我々の日常生活に定着していったかを明らかにすることを試みた。

また、「驚き・感動」「納得感」「伝えたくなる」――という筆者なりの「ヒットの法則」に照らし合わせ、グミとは何者かを探った。そしてグミをケースに、消費者に愛されるブランドになるために企業はどうすればいいのかを考えた。(「はじめに」より)

著者は「グミとはなにか」という問いに対し、①「『幸せ感』につながる小腹満たし・気分転換」、②「『コスパやタイパ』につながる代替ニーズを満たす」、③「『楽しさ』につながるバラエティーの豊かさ」、④「『期待感』が高まる相次ぐ新商品の登場」、⑤「『つながっていることを実感』できるコミュニケーションツール」という5つの視点を導き出しています。

こうした要素は、意外性や当初に期待していた水準を上回る「驚き」、コストパフォーマンス(コスパ)やタイムパフォーマンス(タイパ)を含めた納得感へとつながるはず。そして驚きと納得感がそろえば、「人に伝えたくなる」という人間の心理に働きかけもするでしょう。

そう考えてみると、グミのポテンシャルを推しはかることができるのではないでしょうか? そこできょうは第2章「消費者の声から読み取る『グミ』とは」に焦点を当ててみたいと思います。

人口が減少する日本で、なぜグミは成長しているのか

いまさら強調するまでもなく日本では少子高齢化が進んでおり、食品産業もその影響を免れません。2022年の食品の家計消費支出(家計調査=2人以上の世帯)は実質で前年比1.3%減。エネルギーコストの上昇や値上げが続くなかで実質賃金が飲み悩み、生活者の節約思考が強まった結果だといえそうです。

しかし、菓子は実質前年比2.5%増と堅調。菓子業界ではスイーツブームが続いており、年間の消費支出は10年前の7万7779円から2022年は9万4373円と大きく伸びているというのです。

全日本菓子協会によると、2022年の菓子の生産数量は195万888トンで、この20年ほどは190万トン台で横ばい。消費額の増加は、菓子業界による高付加価値化の努力も関係しているのだろうと著者は述べています。(62ページより)

人口減少の影響は免れない

しかし、そうはいっても人口減少の影響を免れることはできないでしょう。国立社会保障・人口問題研究所は、2056年に人口が1億人を下回り、2059年には日本人の出生数が50万人を割るとの予測を2023年4月に公表しています。つまりは菓子業界も、急速な少子高齢化に伴う人口減少の影響を免れることをできそうもないということです。

ちなみに菓子業界においてはガム市場が縮小しているようで、それは人口動態の影響も少なくないといいます。事実、ある菓子メーカーのマーケティング担当者は、「(過去にガムをよく噛んでいた)団塊の世代が大量退職して人と会う機会が減り、口臭対策としての利用が減ったことが大きい」と分析しているのだとか。(63ページより)

ベネフィットが世代間で受け継がれるグミ

では、グミはどうでしょうか? この点については、グミと「団塊ジュニア」との関係性を著者は指摘しています。

団塊の世代の子どもたち「団塊ジュニア」の幼少期の1980年代に登場し、団塊の世代には及ばないものの人口が分厚い層を取り込んだ。

明治の「果汁グミ」の登場で市場が確立され、様々なメーカーが様々な新商品を投入。ジュニア達にとって思春期の「思い出の味」となっていった。

ここまではガムの流れと同じだが、グミは親から子どもへと「おいしさ」などのベネフィット(商品から得られる価値、便益)がうまく伝わった点で、ガムと明暗を分けたのではないだろうか。(64〜65ページより)

事実、各種消費者調査のデータにおいて、グミを食べているのは「年代では20〜30代、ライフステージでは子育て中といった若い層で多い」ことが明らかになっているといいます。親の世代がグミを子どもに買い与えたり、食べさせたりしている実態が浮かび上がっているということです。

実際、あるグミメーカーの担当者は

『果汁グミ』が強いのは、子どもが生まれて最初に食べるグミが『果汁グミ』というところ。調査でも、お母さんが最初に買い与えるグミが『果汁グミ』だというのが非常に多い。その子どもが大人になっても、そのまま『果汁グミ』を食べ続ける。つまりロイヤルユーザーになっていく流れがある」と話す。(65ページより)

そう考えると、「コーラアップ」や「果汁グミ」「ピュレグミ」など、グミにロングセラーが多いことにも納得がいくわけです。(63ページより)

世代間の垣根がなくなる「消齢化」

グミは幅広い層に支持されていますが、そのことに関して興味深い視点が「消齢化」というキーワードなのだそうです。

これは、博報堂生活総合研究所が30年にわたるデータをもとに打ち出したもの。たとえば「ハンバーグが好き」「超能力を信じる」「夫婦はどんなことがあっても離婚しないほうがよい」「木の床(フローリング)が好き」といった問いへの肯定否定の回答については、30年間で大幅に世界観の違いが縮小しているというのです。

理由はいくつかある。

①生活インフラの充実により生活者の「できる」が増えた。②社会から「すべき」が減り、皆がそれにとらわれずに暮らすようになった。③嗜好や関心の面で「年相応」から離れ出した生活者の「したい」が重なった――などが指摘される。(66ページより)

そんななかで消え去っていったのは、「甘いお菓子は、子どもや若い女性が食べるもの」といった「偏見」ともいえるイメージ。いいかえればグミ人気は、そうした事実を証明しているわけです。(66ページより)

日本におけるグミの歴史はわずか40年ほど。にもかかわらず、幅広い層が支持する商品として定着しています。

だとすれば、こうしてグミについてのさまざまなトピックスを解き明かすことによって、時代のニーズをも推し量ることができるのではないでしょうか? 「たかがグミ」と侮ることなく、本書を通じてこの不思議な商品を掘り下げてみたいところです。

Source: プレジデント社

メディアジーン lifehacker
2024年6月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク