同じ1ドル=150円なのに、円安だ円高だと変わるわけは?池上彰さんがずばり解説

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20歳の自分に教えたい経済のきほん

『20歳の自分に教えたい経済のきほん』

著者
池上彰+「池上彰のニュースそうだったのか!!」スタッフ [著]
出版社
SBクリエイティブ
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784815623098
発売日
2024/03/07
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【毎日書評】同じ1ドル=150円なのに、円安だ円高だと変わるわけは?池上彰さんがずばり解説

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

このところ円安が進んだかと思うと、急に少し円高になったりと、大きな変化が起きています。株価も上がりました。日経平均株価が大きく上昇し、「バブル崩壊以来の高値」と言われるようになっています。

これまで日本経済はデフレが続き、「失われた30年」などとも言われましたが、どうやらやっとデフレから脱却し、今度はインフレの世の中になりつつあるようです。

でも、どうして日本経済は、このように変動するのでしょうか。(「はじめに――日本経済が大きく飛躍する兆しを読み解く」より)

20歳の自分に教えたい経済のきほん』(池上彰 著、SB新書)の著者である池上彰さんも、自身が担当されているテレビ朝日系列の番組「池上彰のニュースそうだったのか!!」では折に触れてこの問題を取り上げてきたそうです。

経済にはどこか「難しい」というイメージがありますし、それは事実かもしれません。とはいえ順を追って解きほぐしていけば、案外わかりやすくもなるもの。そこで番組でも、「どうすればわかりやすくなるか」に重点を置いているわけです。「お金のきほん」や「現代史のきほん」「地政学のきほん」などに続くシリーズの最新作である本書も、その流れのなかで誕生したということです。

そして今回は「経済」です。経済の仕組みを基本から解説しています。(中略)日本経済の低迷、世界的な物価高、アメリカの銀行破綻、中国の特殊な経済システムなど、世界経済を読み解くには、円高・円安やインフレ・デフレなどの「経済のきほん」を知る必要があるからです。そのため、この本では「円安とはどういうことか?」「デフレとは?」など「経済のきほん」を、場面に応じてくり返し解説しています。(「はじめに――日本経済が大きく飛躍する兆しを読み解く」より)

そうした流れに沿って見ていけば、経済はわかりやすくなると池上さんはいいます。きょうはそのなかから、第5章「なぜ景気は良くならないのか? ――1987年と2023年の『1ドル=150円』はどう違うか?」に焦点を当ててみたいと思います。

昔は1ドル=360円だった!

2022年、23年の経済ニュースといえば、やはり衝撃的な円安ということになるでしょう。22年3月1日には1ドル=115円だったのに、約半年後の10月21日には1ドル=150円台に。23年も年初は1ドル=130円前後で落ち着いていたものの、そののち急速に円安となり、11月に入って1ドル=151円台に乗せたのでした。

このように現在は円安が大きな問題になっているわけですが、昔は円安や円高がニュースになることはありませんでした。それはなぜ?

誰もが知っているように、円相場は毎日変動しています。ところが、今から50年以上前、円相場は変動しないのが常識でした。戦後はずっと1ドル=360円で固定されていて、円安になることも円高になることもなかったからです。これを固定相場制と言います。(148ページより)

固定相場制をやめ、需要と供給に応じて1ドルの価値が変動する変動相場制に移行したのが1973年のこと。ここから1ドル=360円時代は終わり、以後は円高が進んだのです。1978年には初めて、1ドル=200円を突破しています。つまり円安や円高がニュースで取り上げられるようになったのは、変動相場制になってからなのです。

円高とは、円の価値が高いということ。つまり、日本経済がそれだけ成長したことを意味します。円高は1980年代に入ってさらに進行し、1987年、ついに1ドル=150円を突破しました。この頃の日本は好景気に沸いていました。一方で円高の行き過ぎが問題になっています。(149ページより)

長きにわたって日本の経済成長を牽引してきたのは、製造業を中心とした輸出産業です。しかし円高は、輸出産業にダメージを与えることになりました。たとえば1ドル=200円のとき、200万円の自動車を輸入して1万ドルで販売したとしましょう。

でも円高で1ドル=100円になると、200万円の車のドル建て価格は2万ドルに上がります。価格が上がれば車は売れなくなり、その会社の業績は悪化します。ここからもわかるように、円高が行き過ぎると、自動車を筆頭とする輸出産業全体が大きな打撃を受けてしまうのです。(148ページより)

円安・円高の基準を知っていますか?

2022、23年は円安で輸入品の価格が高騰し、私たちの暮らしに深刻な影響を与えました。海外旅行の費用も跳ね上がり、国内旅行に切り替えるという流れも出てきました。

しかし円相場は、1987年当時も現在も1ドル=150円です(23年11月17日現在)。同じ1ドル=150円なのに、なぜいまは円安で、昔は円高だったのでしょうか?

これは、円安・円高は単に以前と比較した言い方だからです。今は1ドル=115円だったのが150円になってしまったから円安と言い、1987年の1ドル=150円は200円だったときと比べたので円高と言ったのです。いくらだから円安、いくらだから円高という決まった基準はありません。1ドル=150円が時によって円安になったり円高になったりするということです。(150〜151ページより)

円安は輸出の面でメリットが大きいため、一般的に日本にとってはいいこととされています。しかし22、23年の円安は、あまりいいことではありませんでした。急激に円安が進んだため、輸入品の価格が急騰して私たちの暮らしに大きな影響が出る物価高につながったからです。そのため、「悪い円安」といわれているのです。

一方、輸出産業は海外から部品を輸入して国内で組み立てるケースが多数。したがって輸入する部品の値上がりの影響を受け、輸出が伸びてもあまり利益が出ないという状況に陥っているわけです。(150ページより)

好景気とは、「お金の流れ」がよくなること

ところで、「景気がいい」とはどういうことでしょうか? 端的にいえば好景気とは、お金の流れが良くなること。あるいはお金の回りがよくなることです。

お金がぐるぐる回っているのが、景気が良い状態、逆に、どこかで滞ったり、回りが遅かったりするのが、景気が悪い状態。景気の良い悪いでこういう違いがあるのです。(156ページより)

ちなみに「お金は天下の回りもの」ということばがありますが、ここでいう天下は天下人(天下を取った人)や偉い人のことではなく、世の中のこと。金銭は世の中を常にめぐっており、一箇所にとどまることはないといっているのです。いいかえれば、お金が一箇所にとどまっていたり、お金が回らなかったりしたら、それは問題だということ。(154ページより)

冒頭の指摘にもあるようにわかりにくくはあるものの、「経済のきほん」はなかなか人に聞きづらくもあるでしょう。だからこそ本書を活用し、知っておくべきことをきちんと理解してみてはいかがでしょうか?

Source: SB新書

メディアジーン lifehacker
2024年6月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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