<書評>『デジタル・デモクラシー ビッグ・テックを包囲するグローバル市民社会』内田聖子(しょうこ) 著

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デジタル・デモクラシー

『デジタル・デモクラシー』

著者
内田 聖子 [著]
出版社
地平社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784911256008
発売日
2024/04/30
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『デジタル・デモクラシー ビッグ・テックを包囲するグローバル市民社会』内田聖子(しょうこ) 著

[レビュアー] 斎藤貴男(ジャーナリスト)

◆監視し支配する技術に警鐘

 携帯電話が普及し始めた頃人間には100年早いと、評者は思った。スマホの登場で1万年説に改宗したのち、最近はあと100万年は必要だったと考えるに至っている。

 なにしろデジタルのテクノロジーは恐ろしい。人間のあらゆる営みをデータ化し、カネにして(マネタイズ)、心の奥底までを支配する。利便性や生産性の類(たぐい)とは引き換えにできない、してはならない価値が、いとも簡単に破壊されていく。

 やはり、と感じた。本書にある米国の“先進”事例の数々が、あまりに凶悪だから。

 人々の移動を日常的に追跡し続ける「顔認識」。個々人の検索履歴に沿って垂れ流されてくる「ターゲティング広告」。それら監視ビジネスの闇間を遊泳する「データブローカー」どもの跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)……。

 米巨大IT企業などが結託し、オンラインゲームに夢中な子どもを誘導する「デジタル・フード・マーケティング」は、肥満児を爆発的に増加させた。このままでは人類の精神構造そのものが変質せずにはいられまい。

 サッチャー元英国首相の妄言「社会は存在しない」を思い出す。そう、彼女が牽引(けんいん)した新自由主義とデジタル技術が融合した「監視資本主義」にとって、人間などバラバラに「従属」させ、カネにするためだけの生き物なのだ。

 もちろん本書は絶望のススメではない。それでも民主主義を守ろうとする米国市民らの闘いに力点を置いている。

 翻って日本はまだ、米国ほどには社会を破壊されていない。とすれば彼らの失敗と復活への努力に学び、少しは真っ当な世の中に舵(かじ)を切り得る余地があるはずなのに――。

 そのような意識は政府にも経済界にも皆無。メディアによる批判も極端に弱い。

 だからこそ著者は警鐘を乱打する。立ち止まって問い直そう、「私たちはどのような世界に生きたいのか」と。

 船出したばかりの新生出版社の、最初のラインナップだ。本書の刊行を機に、評者の皮相な見解が粉砕されるような議論が盛り上がらんことを。

(地平社・2200円)

NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表。

◆もう一冊

『監視資本主義』ショシャナ・ズボフ著、野中香方子(きょうこ)訳(東洋経済新報社)

中日新聞 東京新聞
2024年6月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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