『立憲民政党全史 1927‐1940』井上寿一著者代表/櫻田會編

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立憲民政党全史 1927-1940

『立憲民政党全史 1927-1940』

著者
井上 寿一 [著]/金子 龍司 [著]/小山 俊樹 [著]/菅谷 幸浩 [著]/村井 良太 [著]/若月 剛史 [著]
出版社
講談社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784065322277
発売日
2024/03/01
価格
3,410円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『立憲民政党全史 1927‐1940』井上寿一著者代表/櫻田會編

[レビュアー] 清水唯一朗(政治学者・慶応大教授)

「総意」の政治 挫折と遺産

 政権交代可能な二大政党制。先行する有力な政党がある場合、その実現は容易ではない。

 相手は強大であった。自由民権運動以来の地盤を自由党から継ぎ、伊藤博文のテコ入れにより官界、財界と結びついた政友会である。明治期に生まれた「政友」たちの結束は固い。

 大正時代、対抗を期す人々は立憲政治の完遂を掲げて憲政会を名乗った。しかし、概念としての「憲政」は人の結びつきである「政友」を超えられなかった。

 昭和に入り、男子普通選挙の実施が視野に入ると、彼らは国民の総意による政治を掲げて「民政」を名乗った。着実な政治姿勢で朝野の信頼を積み上げ、最初の総選挙で与党を僅差まで追い詰め、ほどなく政権を担う。明治維新から六〇年を経て、戦前の二大政党制が完成した。

 既存勢力と結び、積極財政、利益誘導といった政治を得意とする政友会に対し、民政党は緊縮財政、産業合理化、国際協調と誠実に政策を進める。両者はしばしばそう対比されてきた。

 いや、美しすぎる。実態はどうなのか。達意の筆に導かれて前史から解党までを辿(たど)ると、政策と政治のあいだで揺れる姿が見えてくる。

 民意を汲(く)み、政策の幅を広げ、ラジオや映画といったメディアに乗せて国民に語りかける姿勢は、新しい時代を感じさせ、期待を集めた。

 誠実さは時に党を苦境に追い込む。譲歩すれば信を失い、固執すれば困難が待つ。

 難局を突破したのは浜口雄幸の指導力であった。「政党を改革するには、真剣な人がその中心に飛込んで来て改革を断行せねば実績は到底挙らない。自分も泥田にはいつて行つて、相手の泥を落(おと)さなければ駄目だ」と勇進した。

 浜口なきあと、民政党は政策と政治のあいだで迷走を深め、その歩みは一三年で潰(つい)えた。しかし、その知識と経験は戦後に受け継がれている。浜口のことばを借りるなら、「民政」はいまだ試験時代にあるのかもしれない。(講談社、3410円)

読売新聞
2024年5月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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