『成瀬は天下を取りにいく』
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稲垣来泉(モデル・俳優)×宮島未奈(作家)スペシャル対談
[文] 新潮社
稲垣来泉さん
本日、6月14日公開の映画『ブルー きみは大丈夫』日本語吹替版で主演声優を務める稲垣来泉(クルミ)さんは、13歳の中学2年生。
ティーン誌「nicola(ニコラ)」モデルとして人気を博すだけでなく俳優としても活躍中で、NHK朝ドラ「ちむどんどん」でヒロインの子ども時代を好演する姿を記憶している人も多いだろう。
そんな稲垣さんは、今年の本屋大賞受賞作『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)の大ファンだということで、著者の宮島未奈さんに熱烈オファーを送り初対談が実現した。ドラマや雑誌の撮影現場にも持ち込んでいたほど大好きな「成瀬」への熱い想いを語りながら、宮島さんに一生懸命質問する初々しい姿をお届けする。
※以下、敬称略
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「この作品を読んでからすっごくマイペースになりました」
クルミ:私、ちょっと前まではけっこう周りを見て行動するタイプだったんですけど、この作品を読んでからすっごくマイペースになりました(笑)。
宮島:それはいいですね!
クルミ:マイペース、楽しいです(笑)。『成瀬は天下を取りにいく』が本屋大賞を受賞したという記事を見て、主人公が中学2年生ということで、私と歳が近かったのもあって興味を持ちました。
宮島:成瀬と同世代の方が読んでくださっているのが、とても嬉しいです。サイン会などに来てくれるのは大人の方が多いので、中学生の方の感想を聞けるのを楽しみにしてきました。
クルミ:1巻の『成瀬は天下を取りにいく』の方で好きなのは「レッツゴーミシガン」と「ときめき江州音頭(ごうしゅうおんど)」です。レッツゴーミシガンでは成瀬が告白をされるシーンで、ちょっと照れくさそうにしている顔をすっごく鮮明に想像できて、かわいい~! と思いながら読みました。「ときめき江州音頭」では島崎が東京に引っ越すことになった時、大切な人が自分から遠くなってしまうっていうのを聞いた成瀬が、今までの変わらない日常でのテンポを崩してしまうシーンが、すごく好きでした。
2巻の『成瀬は信じた道をいく』の方では、「コンビーフはうまい」と「やめたいクレーマー」が好きです。
宮島:ありがとうございます。嬉しいです。
挑戦しなきゃ何も始まらないということを成瀬が改めて教えてくれた
クルミ:質問なのですが、宮島さんがこの作品を通して伝えたい思いってどんなことですか?
宮島:“先のことは分からない”ってことですね。成瀬も作中で「東京オリンピックが延期になるって知っていたのか」みたいなことを言うんですけど、本当に先のことって分からないなって私もいつも思っています。私はこれまで長く主婦をやっていて、小説家になれるなんて思ってなかったんですよ。
小説家をもう一度目指してみようって思って書き始めたのが 2017 年なんですけど、書き始めてからもなかなか新人賞を受賞できなくて、このまま小説家にはなれないのかなって思っていたんです。でも、いざ受賞して小説家になって、そしてこうやって本屋大賞という大きな賞を取るというのは、全然想像していなかったことでした。もちろん嬉しいですけど、でもやっぱり意外だなっていう気持ちが大きくて。だから将来のこととかね、悩んでいる人も多いと思うんですけど、もしかしたら明るい未来が待ってるかもしれないっていうのは、この作品を通して言いたいことですね。
クルミ:私も基本挑戦したいマインドなので、成瀬と共通する部分もあったりするんですが、挑戦しなきゃ何も始まらないなっていうことを改めて教えてくれたように思います。
宮島:挑戦……それもよく言われるかもしれない。「この本を読んで何かに挑戦してみたいと思った」みたいなことを言ってもらえることがありますが、私の本がそのきっかけになっているっていうのは、作家としてすごく嬉しいことだなって思ってます。
娘のような存在の成瀬。最近ではビジネスパートナーにも
クルミ:宮島さんが中学生時代に好きだったものや興味があったものってなんですか?
宮島:ああ~えっとですね、私は中学生のころから競馬が好きでした。全然興味ないと思うんですけど(笑)。競馬が1番の楽しみで、レースをテレビで見たり、競馬ゲームを家でやったり。
クルミ:競馬の好きなところはどんなところですか?
宮島:競馬って、馬に歴史があるんです。例えばAの馬がBの馬と対戦したときに、今回はAが勝ったけど、次に対戦した時にはBの馬が勝つというような、対決が積み重なっていくのも楽しみですし。で、さらに何年か経ってその強かった馬の子どもが生まれたりすると、その子も応援したくなる。そういうところが好きでした。
クルミ:歴史と未来を楽しめる、ということなんですかね?
宮島:そうかもしれないですね。その馬の小説みたいな感じかもしれないです。生まれてから大きなレースに勝つまでをストーリー的に楽しんでいたというか、馬の人生をドラマとして楽しんでいたという感じがあると思います。
クルミ:そういう視点だったんですね! 次に、宮島さんにとって成瀬はどんな存在ですか?
宮島:成瀬は娘のような存在ですね。自分が生み出したものではあるんだけれど、自分とは別人だし、だけどやっぱり自分が生んだものだから、すごくかわいいし…っていう。成瀬も、実は成瀬の母親から見るとそんなに変わった子だと思われていないと思うんです。なんか変なことしてるけど、お母さんとしてはこの子変だなとはあんまり思いたくないんじゃないかなと。だからそういう気持ちで、私も成瀬を見ているんですけれど、その一方で最近はビジネスパートナーみたいにもなっていて(笑)。成瀬がいてくれたおかげで、私もいろんな仕事をできていたりするので、一緒に仕事をしてくれているイメージですね。
クルミ:そうなんですね。私にとって成瀬はあこがれの存在で、友だちでこういう子がいたら絶対楽しいだろうなって思いながら読んでいました。
宮島:読者さんによってもそこは感想が分かれるところで、同じクラスに成瀬がいたら? って質問すると、遠くで見ていたい人もいれば、仲良くなりたい人もいるし、いろいろあっておもしろいんです。稲垣さんは友だちになりたいタイプなんですね!
クルミ:友だちになりたい! 成瀬が人の言うことを否定するわけでも、自分を否定するわけでもなく、いろんな情報を自分の知識にしながら、前向きに進んでいくのを読んで、私もこんな風になりたい、すごく楽しそうだなって思いました。
宮島:そうですよね。成瀬ってけっこう周りの話を聞くんですよね。そこが特徴的だなと思っていて、わりと天才って周りの言うことを聞かなかったりすると思うんですけど、成瀬は周りのことを見ていて、話を聞いて自分に取り入れたりするので、そういうところが好かれる理由なのかなと思います。