本当は自分の子供ではないとわかっているのに…磯野貴理子が「何だか切ない」と思った親鳥の習性とは?

インタビュー

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カラスの早起き、スズメの寝坊

『カラスの早起き、スズメの寝坊』

著者
柴田 敏隆 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784106035159
発売日
2002/07/18
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

本当は自分の子供ではないとわかっているのに…磯野貴理子が「何だか切ない」と思った親鳥の習性とは?

[文] 新潮社


磯野貴理子さん

趣味のバードウォッチングが高じて、2年前に「日本野鳥の会」に入会したタレントの磯野貴理子さん。

愛読書のひとつが、日本鳥類保護連盟の評議員を務めた柴田敏隆さんの『カラスの早起き、スズメの寝坊:文化鳥類学のおもしろさ』(新潮選書)だという。

その磯野さんにバードウォッチングの魅力や日本野鳥の会で学んだこと、そして愛読書で衝撃を受けた「あなたの愛鳥度テスト」について聞いた。

 ***

――磯野さんにとってバードウォッチングの醍醐味とはどういうところでしょうか?

 美しい声で鳴いたり、仲間同士でじゃれ合っていたり、喧嘩をしたり……そういう鳥たちの姿を見ているだけでも時間が経つのを忘れてしまうほど楽しいですが、個人的に一番心が惹かれるのは、やはり親鳥が一生懸命にヒナを育てている姿でしょうか。
 去年の暮れに宮城県伊豆沼に大陸から飛んでくるマガンを見に行ったのですが、親は子供が稲の落穂を食べているときに外敵がこないか、ずっと周囲を見張っているんですね。そんな自然の中で健気に生きる鳥の姿に心打たれます。
 また、柴田さんの『カラスの早起き、スズメの寝坊』でも紹介されていますが、エナガという野鳥は集団で共同育雛することで知られています。4月上旬から5月初旬あたりにエナガの巣のそばで、巣立ち前のヒナが何羽も仲良く団子のようにくっつきあっている姿が見えます。いつか写真に撮ってみたい光景です。……その姿が本当にかわいいんです。
 一方で、人間が簡単に感情移入できないような場面に出くわすこともあります。たとえば、カッコウなどに見られる習性ですが、他種の鳥の巣に卵を産みこむ「託卵」があります。自分の子供ではないのに、親鳥は一生懸命エサを運んでくるんですね。あれは、親鳥の方も本当は自分の子供ではないとわかっているそうです。でも、雛が口を空けている姿を見ると、本能的に餌を与えることを拒否できない……何だか切なくなってきます。
 それとは逆に、自分の子供であっても、成長する見込みがないと判断した弱いヒナには、わざと餌をやらない、さらには、巣から突き落とす、なんてこともある。そんな自然の厳しい一面も鳥の世界にはあって、それはそれで深く心が揺さぶられる思いがします。


奥多摩で見つけたクマタカ。猛禽類はカッコいい(撮影 磯野貴理子)

――自然のルールは弱肉強食ですから、バードウォッチングも「ほのぼのとした世界」を見るだけでは済まないのでしょうね。

 この前、クマタカの写真を撮ったんですけど、縞々の尾羽根とか、本当に美しい。自分の写真を見て、一人でにやにやしているんですが、タカとかワシなどの猛禽類は、やはり小鳥とは違って鋭い目つきをしていますね。
 ハイタカという、ハトくらいの小柄な鷹がいますが、シジュウカラなど他の小鳥を主食にしているんです。柴田さんの本には、ハイタカ1羽が生存し続けるためには、1年間に779羽のシジュウカラを捕食しなればいけないと書いてあって、びっくりしました。
 さらに驚いたのは、そのシジュウカラも1年間に12万5000匹の松尺取蛾の幼虫を食べる。ということは、だいたいハイタカ1羽で1億匹の幼虫が必要になる計算です。そして、この1億匹を養うためには、420ヘクタールの森がいるというのですから、食うか食われるかの食物連鎖の中で、鷹のような猛禽類が生き延びるには、膨大な生命とエネルギーが必要なことがわかります。

――ハイタカに襲われているシジュウカラを見たりしたら、思わず助けたくなったりするんじゃないですか?

 それについては、柴田さんの本で紹介されていた、日本鳥類保護連盟の「あなたの愛鳥度テスト」が参考になります。小鳥の雛が蛇に襲われそうになっているとき、どうすべきかという質問があるんですが、だいたいの人が「ヘビを捕えて遠くへ持っていって放す」という答えを選ぶ。ですが、日本鳥類保護連盟による正解は、実は「何もしない」なのです。
 私も最初は間違えました。バードウォッチングを始めた頃は、小鳥がタカに食べられる場面は怖いし可哀想だし動画などでも現れてもとても直視できなかったのですが、この頃は平常心で見られるようになりました。よく考えれば、小鳥も虫やカエルなどを食べていますし、これが自然なんだと受け止めています。
 最近では、ハトとカラスが空中で戦っているのを見ても、「どっちが勝つかな」と冷静に観察したりしていますね。

――柴田さんの本の副題には「文化鳥類学」とありますが、そのような学問分野があることを初めて聞きました。

 私は学問的なことはよく分かりませんが、たしかにバードウォッチングをしていると、地球環境とか文明や文化とか、普段はあまり考えないようなことを考えるようになりましたね。私たち人間は深く考えずに、森の木を切り、ダムを造り、海を埋め立て、自分たちの思うままに大地を改造していくじゃないですか。でも、それは自然の中に生きる動植物に深刻な影響を与え、巡り巡って人間にも跳ね返ってくるんじゃないかとか……。
 以前、ベテランの「日本野鳥の会」の方がおっしゃっていて印象に残っているのが、「鳥を知ることは、つまり、地球を知ることになる」という言葉です。鳥に興味を持てば、その餌になる昆虫などについても知ることになる。ひいては、地球環境全体に目がいくようになる。この言葉には本当に感銘を受けました。

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磯野貴理子
三重県出身。85年にお笑いアイドルグループ「チャイルズ」の一員として活動開始。解散後はタレント、女優として活動。NHK連続テレビ小説には「走らんか!」(95)、「あぐり」(97)に出演。現在は、CX「はやく起きた朝は…」、「ホンマでっか!? TV」、NTV「行列のできる相談所」にレギュラー出演中。CX「はやく起きた朝は…」は30年目を迎えた。

新潮社
2024年6月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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