高校生探偵が活躍する「小市民」シリーズ。最終作は文庫書き下ろし!

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冬期限定ボンボンショコラ事件

『冬期限定ボンボンショコラ事件』

著者
米澤穂信 [著]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784488451127
発売日
2024/04/30
価格
880円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

高校生探偵が活躍する「小市民」シリーズ。最終作は文庫書き下ろし!

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 直木賞等数々の文学賞を獲得した『黒牢城』を始め、毎度単発作品で話題を呼ぶ米澤穂信だが、シリーズものも高い人気を得ている。高校の廃部寸前の部活を描いた「古典部」シリーズと双璧をなすのが、小市民を目指して互恵関係を結んだ高校生コンビの活躍を描いた「小市民」シリーズ四部作だ。

 本書はその一五年ぶりの最終作であるが、何と主人公の一人、小鳩常悟朗が開巻早々、車にはねられ入院してしまう。

 クリスマスイヴ前日、相棒の小佐内ゆきと学校帰り、堤防道路を歩いていたところを轢き逃げにあったのだ。命に別状はなかったが、二ヵ月入院の重傷で、来る大学受験も見送る羽目に。幸い小佐内さんは無事だったようだが、見舞いにきた親友の堂島健吾の話だと、三年前に自分と同じように轢き逃げにあった元級友の日坂祥太郎が自殺したらしいとのこと。彼に謝りたいことがあった小鳩君は心を痛める。

 かくて、日坂君が轢き逃げにあった三年前の事件の回想が始まる。当時名探偵を気取っていた小鳩君は、日坂君のバドミントン部のチームメイトに煽られて捜査を開始。事故現場で英単語帳を拾い、さらに目撃者から現場にもう一人、女子がいたこと、その子が車を避けようとして堤防から落ちていったことを知らされるが……。

 物語は入院中の小鳩君があれこれ推理をめぐらすいわゆる“寝台探偵(ベッド・ディテクティヴ)”趣向の現在パートと、三年前の小鳩君と小佐内さんの日坂君轢き逃げ事件捜査行の過去パートが交互に描かれていくが、読みどころは脱出不可能な一本道から轢き逃げ車が消失する一件と、小鳩君と小佐内さんの出会いのエピソード。小鳩君が動けない現在パートにも、周到な伏線の回収劇とサプライズが用意されており、読み応えは単発作品に引けを取らない。新シリーズにも期待出来そう!

新潮社 週刊新潮
2024年6月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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