<書評>『平岡正明著作集(上)(下)』平岡正明 著 平岡正明著作集編集委員会 編

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平岡正明著作集(上)

『平岡正明著作集(上)』

著者
平岡正明 [著]/平岡正明著作集編集委員会 [編]
出版社
月曜社
ISBN
9784865031843
発売日
2024/03/28
価格
3,520円(税込)

平岡正明著作集(下)

『平岡正明著作集(下)』

著者
平岡正明 [著]/平岡正明著作集編集委員会 [編]
出版社
月曜社
ISBN
9784865031850
発売日
2024/03/28
価格
3,520円(税込)

<書評>『平岡正明著作集(上)(下)』平岡正明 著 平岡正明著作集編集委員会 編

◆革命と文化 1000ページに圧縮

 平岡正明を圧縮した2冊本。黒と赤。合わせて千ページ。

 没後15年が経(た)つ。応答するには同分量をもってするのが「仁義」だが、ここは簡略な紹介にとどめる。

 ところで、この著者を、この圧縮本を、簡便に書評できるだろうか。危険な思想家は要約不能。とはいっても、思想とはそもそも取扱注意の危険な代物だ。平岡は常に全身をもって、ジャズ・ポップス・大衆小説・大衆芸能など多様な文化事象の細部にもぐりこみ、飛躍的に「革命」論を語ってきた。対象に密着しすぎる愛好家や研究家のようにではなく、騒がしい煽動(せんどう)家のように――。

 黒本(上巻)は「危険思想の軌跡」として「犯罪革命論から窮民革命論へ」と旋回していく著者の初期論考が。赤本(下巻)は「大衆文化と革命」として「歌謡曲、ジャズ、新内、落語……大衆文化の過激な底力」へと共振していく円熟期の仕事が、選択される。配列はほぼ年代順。

 本書には二通りの読み方がある。一つは編者が編んだ指定にしたがってページを追って読み進む。一つは千ページのどこでもいい、パッと適当に開いたところからちょっとずつ読む。そのうち、黒本はレーニン主義(アカ)だが、赤本はアナキズム(クロ)だ、「逆じゃないの?」と気づくかも。そうなれば、平岡正明入門の第一歩を踏みだせる。

 ジャズ批評が真髄(しんずい)だったと思う。それも行儀よく論じるのではなく、ジャズのようにアドリブを聞かせ、グループ演奏からソロを突出させるスタイルを貫いた。帯に言葉を寄せた五木寛之は、平岡のデビュー作にも推薦の辞を書いていて「言葉と文章によるミュージシャンだ」と、その天性を早くも見抜いている。

 出立は1960年代の文化革命の時代。その陽光、楽天性を、平岡は最期まで陽気に疾走していった。編者は60年代体験を記した「赤色残俠伝」を巻末に置き、一定のメッセージをこめた。著作集(これほど平岡の本質にそぐわない形式はない)を閉じても、平岡の「音楽」は終わらない、と。その意気やヨシ。

(月曜社・各3520円)

1941~2009年。評論家。『ジャズ宣言』など生前に120冊余り。

◆もう一冊

『毒血と薔薇 コルトレーンに捧ぐ』平岡正明著(国書刊行会)。その後のジャズ批評の1冊。

中日新聞 東京新聞
2024年5月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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