<書評>『本屋のない人生なんて』三宅玲子 著

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本屋のない人生なんて

『本屋のない人生なんて』

著者
三宅玲子 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784334102647
発売日
2024/03/21
価格
2,090円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『本屋のない人生なんて』三宅玲子 著

[レビュアー] 木村晃(サンブックス浜田山店長)

◆その土地ならではの品揃え

 北海道から九州までの11の本屋を訪ね歩いた記録だ。

 著者は「この本に登場する書店主たちの本を商う姿には、業界や職種を問わない、働く本質がある」と綴(つづ)っている。それぞれの店主の考え方や言葉は、本屋に関心がない人にも働くうえでの一助になることだろう。

 紹介されるのは、雑誌から実用書も含めひと通り置いてある街の本屋であったり、独立系といわれる独自の選書のみを並べるといった小規模の本屋、地域の人の要望に応えようとする本屋、さらには本屋を続けるために副業もやる本屋、自給自足しながらの半農書店など、店舗の大きさも大小様々(さまざま)と多岐にわたる。それぞれがどのような本屋なのかは、店主との会話の中からうかがい知ることができる。

 開業する前の背景から現在に至るまでの経緯も丁寧に取材されている。あわせて小売店が利益を出しづらい出版業界の問題点も提起されているが、試行錯誤しながらも、それを打開する仕入れ方法や工夫で店づくりをしており、取次から送られてくる本だけを並べる本屋ではないのだ。

 共通しているのは、独自の目線で品揃(ぞろ)えをしていることだ。お客さんの好みに合わせて、または店主自身が良いと思う本など、どのような本を仕入れるかという考え方は様々だが、どの店にも、その本屋だからこそ出会える本、その本屋にあるからこそ読んでみたくなる本がある。本を求める人にとって、ここで買いたい、応援したい、と思える本屋があることはとても幸せなことだろう。まさに「本屋のない人生なんて」だ。

 残念ながら本屋は減少を続けていて、本屋がない街も多くあるのが現状ではある、一方では本を必要とする人がいるのも事実としてある。著者は「どの街にもその土地の風土と人からしか生まれ得ない本屋という場所がある。それは代わりのきかない場所なのだ」とも綴っている。本屋の棚をのぞくことで、その街の風土やどのような人が住んでいるのかと想像を膨らませるのも面白いのではないだろうか。

(光文社・2090円)

ノンフィクションライター。著書『真夜中の陽だまり』など。

◆もう一冊

『本屋、はじめました 増補版』辻山良雄著(ちくま文庫)

中日新聞 東京新聞
2024年5月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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