『世界を震撼させた女毒殺者たち 上・下』リサ・ペリン著/『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』小林エリカ著

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『世界を震撼させた女毒殺者たち 上・下』リサ・ペリン著/『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』小林エリカ著

[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)

もがき、戦った女性たち

 帯に書かれた言葉は「毒は女の武器」「微笑んで毒を盛る」そして「この女(ひと)を見よ!」。この二作には、女性を扱っている以上の共通点はないように思える。けれどどちらも、自身の置かれた状況の中でもがき、戦い、時に勝ち、時に負けた実在の女性たちを紹介している。

 『世界を震撼させた女毒殺者たち』(渡邉ユカリ訳)は凝ったデザインの本だ。イラストレーターでもある筆者は、ふんだんなイラストで、古今東西の女毒殺者をポップに紹介する。

 女性は毒殺の最大の実行犯、女性には勇気・意志・身体的な強さがないので毒物を使う、生まれつき毒殺という犯罪に向いている、女が毒に引き寄せられるのは弱いから……古今東西の犯罪学の専門家たちの見解にもかかわらず、男性の毒殺犯もいるし、そもそも世界中の殺人事件の九〇%以上は男性の手によって為(な)されているという統計もある。なのに、なぜ毒殺と女性ばかりが結びつけられるのか。作者はそれを「女性であるという理由で自分の意志で人生をコントロールできない状況」にあった女性たちが、力や社会的地位を持たずとも状況を覆すことができる手段だったのではないか、と考える。

 語られなかった方の性に光を当てるのは『彼女たちの戦争』でもそうだ。やはり作家にして漫画家の作者の扉絵が二八章全てについている。

 破天荒に生きた「青鞜」の編集長伊藤野枝。千数百篇(へん)の詩を残したが、生前は顧みられなかったエミリー・ディキンスン。兵士たちのために時計に放射性ラジウム塗料を施し、被(ひ)曝(ばく)したラジウム・ガールズ。核分裂を発見したが、手柄を男性に取りあげられたリーゼ・マイトナー。「覆いかぶさるガラスを破壊して自らの手で選び取りたいと望」んだ、有名無名の女性たち。

 わたしたちを今、ここに導いてくれた、無数の先達たち。その人生に、思いを馳(は)せる。(原書房、各2420円/筑摩書房、1870円)

読売新聞
2024年5月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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