『テレビドラマは時代を映す』岡室美奈子著

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テレビドラマは時代を映す

『テレビドラマは時代を映す』

著者
岡室 美奈子 [著]
出版社
早川書房
ジャンル
芸術・生活/演劇・映画
ISBN
9784153400245
発売日
2024/04/24
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『テレビドラマは時代を映す』岡室美奈子著

[レビュアー] 長田育恵(劇作家・脚本家)

恋愛・死生観 如実に変化

 配信ドラマは課金しなくてはならないが、テレビは誰でも見ることが出来る。その意味でテレビは万人に開かれた民主的なメディアだ。本書は2019年4月から23年3月までの4年間、各局で放映されたテレビドラマを取り上げた全50回のコラムをまとめた一冊だ。日本テレビドラマ史を概覧できる書き下ろしも加えられている。

 2019年からの4年間といえば元号が令和となり、未曽有のコロナ禍から長いトンネルを脱する頃までだ。事実を映すドキュメンタリーと違い、テレビドラマは人々の暮らしの目線で皮膚感覚や共感心に寄り添いながら時代の息づかいを焼きつけていく。だからこそドラマは人々の価値観や他者との関係性、恋愛・結婚観や死生観がどう変わっていったのかを如実に描き込んでいる。ドラマの背骨となっているのは、まさに「時代」だ。

 各局のドラマが縦横に見渡されているからこそ複眼的な気づきが得られる。たとえば「脚本家のバトン」。山田太一が『想(おも)い出づくり。』で女性三人の連帯を描いたが、彼を敬愛する岡田惠和が同主題で『彼女たちの時代』、『日曜の夜ぐらいは…』と書き継いだ。また「価値観のアップデート」。1990年代に隆盛を極めた恋愛ドラマの時代から変遷し、男女が必ず恋愛に縛られる在り方に疑問が呈され、2022年には『恋せぬふたり』でアロマンティック・アセクシュアルの男女が関係性を構築する姿が描かれた。そして「時代が書かせた台詞(セリフ)」。東日本大震災以降、各局で死者も生者と共に生きていくと描くドラマが増えた。朝ドラ『カーネーション』の終盤は「おはようございます。死にました」とヒロインが自身の死を告げるナレーションが印象的だが、放映日は震災から1年後の3月だったと気づかされ、死者から生者への温かな眼(まな)差(ざ)しに震える思いがした。

 現在放映中のドラマもまさにバトンを受け継ぎ、価値を見直し、先の世に手渡すために創られていると背筋が伸びる。本書はそれぞれの現場で時代を見つめた制作者たちの記録でもある。(ハヤカワ新書、1100円)

読売新聞
2024年5月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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