『鳥と港』
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『カフネ』
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[本の森 仕事・人生]『鳥と港』佐原ひかり/『カフネ』阿部暁子
[レビュアー] 吉田大助(ライター)
仕事に友情や恋愛、様々な人間関係をその場限りで済ますこともできる。だが、そこに「持続可能性」という要素を持ち込んだ途端、自分が今手にしている関係性の脆弱さがあらわになり、再検証が始まる。
佐原ひかりの『鳥と港』(小学館、五月二九日刊)は、新卒入社した会社でブルシットジョブ(くそどうでもいい仕事)に従事させられ、九ヶ月で辞めた春指みなとが主人公。次の仕事を探すこともできずぶらぶらしていたところ、ひょんなことから不登校の高校二年生男子・森本飛鳥と手書きの文通を始める。やがて対面した二人は文通を仕事にすることを思い立ち、クラウドファンディングでのプロジェクトを立ち上げて……。好きなことを仕事にする系のきらめきストーリーかと思いきや、新規ビジネスによる起業のシビアさを意地悪なほどに突き詰めていく中盤部で「そうか、そういうことが起こるのか!」と唸りに唸った。例えば、捌かなければいけない手紙の量が増えすぎた結果、返事が来ないとクレームを寄せた顧客に対して、少しお待ちくださいとメールを出す。手書きの文通が売りのため、それでやり取りしているはずなのに、電子の手紙を出さざるを得ない無念さたるや。自分たちのためだけではなく顧客のためにも、二人は「持続可能性」の問題と向き合う。最後に出した答えには、納得感と快感が宿っていた。
阿部暁子の『カフネ』(講談社)は、四〇歳バツイチの野宮薫子と、急死した弟の元恋人である二九歳の小野寺せつなとの間で築かれる、特別な紐帯の物語だ。始まりは、大喧嘩だ。弟の遺言書にはせつなにも財産を残したいと記されていたため、手続きすべく薫子が会いにいくと先方は「いりません」と一言。「もらう理由がないですから。相続とか面倒くさいし」「面倒って、あなたね、何なのその言い草は!」。ところが、家事代行サービス会社の敏腕料理人であるせつなが、心身ともに傷ついていた薫子に料理を振る舞ったことから二人の関係は変化する。せつなは薫子の掃除上手ぶりに目をつけ、二時間無料の家事代行ボランティアに参加してほしいと誘う。初めての仕事の際、薫子は利用者からの「どうもありがとうございました」の一言で、心を回復させる。〈今、私はあの人を助けたのではなくて、助けてもらったのだ〉。薫子は真面目で実直、恩を絶対忘れない人だ。ならば……薫子がせつなを助ける番がやって来る。
本作における「持続可能性」は、二人の関係に関わる。弟の遺言の処理が終わったら泡と消える「死んだ弟の姉と元恋人」という脆弱な関係を、家事代行ボランティアという仕事が繋いだ。だが、それではまだ弱いと感じたならば、家族のような、「持続可能」な関係でありたいと願ったならば、どうすればいいか? 薫子の決断に、「家族小説」の令和の最新進化形を見た。