商店街のマダムショップは何故潰れないのか? 実体験をベースに小説を描いた柚木麻子がラップユニット・chelmicoと語る

対談・鼎談

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あいにくあんたのためじゃない

『あいにくあんたのためじゃない』

著者
柚木 麻子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103355335
発売日
2024/03/21
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

商店街のマダムショップは何故潰れないのか? 実体験をベースに小説を描いた柚木麻子がラップユニット・chelmicoと語る

[文] 新潮社

『ナイルパーチの女子会』『伊藤くん A to E』『BUTTER』など話題作を手掛ける作家の柚木麻子さんによる最新作『あいにくあんたのためじゃない』(新潮社)が刊行された。

 ブログ記事が炎上中のラーメン評論家や夢を語るだけで行動には移せないフリーター、番組の降板がささやかれている落ち目の元アイドルなどの人生を描いた全6篇を収録した短編集の魅力とは?

 ラップユニット・chelmicoと柚木麻子さんとの鼎談では、物語の元になった実話や作品には描かれなかったサイドストーリーなど盛りだくさんの創作秘話とともに、本書の何が心を動かし奮い立たせてくれるのか、熱く語られた。


ラップユニット・chelmicoの二人と柚木麻子さん

 ***

柚木:Rachelは久しぶり! Mamikoさんは、初めましてですよね。今日はどうぞよろしくお願いします。

Rachel(以下R):お久しぶりです!

Mamiko(以下M):お会いできて嬉しいです。

柚木:Rachelとは10年くらい前に初めて会ったのかな?

R:そうですね。2013年に「ミスiD」という多様な女性のロールモデルを見つけるオーディションに出場したんです。その時の選考委員が柚木さんでした。

柚木:chelmicoとして活動する前だったよね。

M:Rachelとは既に出会ってはいたのですが、その時はただの友達でしたね。

柚木:Rachelはモデルさんみたいな外見なのに「猛獣を追いかけたり、変なもの食べたりもできます!」って話してて、すごく面白い子だなと思っていたんです。

R:確かにそういう質問に「できます!」って答えていたかも(笑)。当時は選考委員の先生とオーディション生、という間柄だったんですが、それから数年後、柚木さんと共通の友人が繋げてくれて、柚木さんのお家にお邪魔するようになったんです。すごく楽しかったです。

柚木:月に1回、持ち回りで誰かの家を開放するというオープンハウスをうちでやったとき、Rachelが子どもの面倒を見てくれたりして。その頃にはもうchelmicoだったよね。

M:2014年に結成しました。共通の友人を通して出会ったRachelから突然「ラップやらない?」って誘われて。私は当時高校生で受験勉強中でした。最初は断ったんですが、思い出作りに一度だけならと考え直してやってみることにしたんです。今年で結成10周年なのですが、去年先に「ともだち10周年ライブ」をしちゃいました。

柚木:すごい素敵! 私はお二人の書くリリックが好きなんです。「Highlight」とか「Summer Holiday」とか。

M:嬉しい! 夏曲がお好きですか? 

柚木:二人の夏休みをのぞき見しているような……。あの緩くて二人が仲良しな感じがすごく好きなんです。

M:ありがとうございます。『あいにくあんたのためじゃない』の「スター誕生」にもラップの描写がありますよね。

柚木:ラップ詞を書くのは初めてだったのですが、実はRachelに先生になってもらったんです。ちゃんと韻を踏めてましたか……?

M:踏めてましたよ! ちゃんとラップになってましたし、キマってました。Rachelは、ワークショップでも先生をやってたしね。

R:それは柚木さんに教えてからずいぶんあとのこと。その時はまだ韻の踏み方を教えたことはなかったから、難しかった。私とラッパーのvalkneeで五十音の表を使って、韻の踏み方講座をやったんです。「あ」の横の欄を見ていくと「か」、「さ」があって、それらは同じ母音なので、韻が踏めるんだよといった具合に……。誰かに教えるのは初めてのことだったので苦戦したんですが、柚木さんはすぐに習得されてましたよね。

柚木:最初は母音とか子音の話をされても、あまりぴんと来なくて、必死に書き出していました。あと「ん」は魔法の言葉で、困ったら「ん」を使えばいいというのがめちゃめちゃ刺さって。五十音の表と「ん」の二つで、韻の謎が解けたように感じました。

M:すごい! でも皆さん意外と普段の生活で韻を踏んでいますよね。「スター誕生」の中で無意識にラップをしてしまう「MCワンオペ」のシーンを読んで、そう思いました。気づかないだけで、言葉の組み合わせ一つで韻を踏んでいる、ラップになっている。

柚木:「MCワンオペ」と呼ばれる女性はファミレスで子供と食事中に、隣の席のYouTuberが撮影している動画にわが子が映り込んでいることに気づいてしまう。子供が映っているところだけ削除してほしいとお願いするんですが、その必死の訴えがラップになってしまって……。これ実は私の心の叫びでもあるんです。

R:そうだったんですね。私も子供が一人いて育児をしているので、彼女の気持ちはすごく分かるんですが、こんな風にはっきりとは言えないだろうな。だからこそ、すごくスッキリしました。

M:「いけいけ! ワンオペ!」って、応援したくなったよね。

柚木:MCワンオペ人気出るのかな? これまた私の実体験なんですが、液体ミルクが、卒乳してからやっと販売されて……。「もっとはやく認可が下りていれば!」という気持ちを込めたラップとかはどう?(笑)。

M:めっちゃヒップホップです!

R:本人のバックボーンがリリックにのっているのが、一番かっこいいもんね。思っていることを代弁してくれるMCワンオペみたいな人、いたらいいな。私もMCワンオペにラップにして欲しいことある!

柚木:なになに?

R:住んでいる自治体によると思うんですけど、自営業の人って子供を保育園に預けるために、定期的に就労実績を提出する必要があるんですよ。

M:え、そうなの?

R:何時から何時まで、レコーディング、この時間帯はライブ、取材といったその日ごとのスケジュールを、ある一定の期間記録して実績としてまとめる。その書類を自分で作らないといけなくて……。

M:めんどくさっ!

柚木:あれ、嫌だよね。私もやってます。

R:ものすごく手間がかかるんですけど、そういう無限にある不満をMCワンオペに代弁してもらいたい。

柚木:Rachelやってよ。

R:私がやればいいのか! ワンオペじゃないけどいいかな。共同名義でやります(笑)。

M:chelmicoフィーチャリングMCワンオペだね!

新潮社
2024年4月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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