『美しく枯れる。』
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たけし、水道橋博士との離別。触れづらいエピソードを初めて語る玉さんの強さ
[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)
厄介すぎる芸名を背負って生きてきた男が、自らのデリケートゾーンに踏み込みまくる一冊。なにしろ帯文からこの調子である。
「殿(ビートたけし)と相棒(水道橋博士)と離れ、独りになった。コロナ禍で(自ら経営する)スナックには閑古鳥が鳴いた。初孫が誕生し、母親は施設に入った。カミさんは、オレに愛想を尽かして出て行っちまった」「それでもオレは、酒を呑んで、笑って、時に打ちひしがれながら、生きてゆく――」
前作『粋な男たち』の発売から5年半の間に起きた触れづらいエピソードの数々。それを、「オレが長年にわたり心血を注いできた漫才コンビ『浅草キッド』は、正式な解散宣言こそしていないものの、実質的な“解散状態”にある」「どうしてこんなことになっちゃったのかな? 自分でもよくわからないよ」「ふたりで漫才をすることが絶対に不可能ではないにせよ、かなり難しい状況であることは間違いない」「いまの状況はボタンの掛け違いで、いろいろこんがらがって、ぐちゃぐちゃにもつれてしまっている状態」なんて感じで、コンビ仲についても初めてここまで語っていくわけなのだ。
そんな玉さんがナイツの漫才を見て、「やっぱり、芸人の本寸法は舞台だよ。ステージで笑わせてナンボの世界だよ。/でも、いまのオレには漫才はできない。悔しさと、さみしさと、恥ずかしさが交錯して」ヘコむのかと思えば、「だけどさ、浅草キッドの漫才だって完敗しているわけじゃないよ。上手さでこそ劣っても、強さなら負けていなかった」と、ほどよく枯れたいまも時間無制限&禁じ手なしルールなら最強だった浅草キッドとしてのプライドを、ちゃんと持ち続けているのがたまらない。
ちなみに別居中の奥さんとは修復中のようなので、他にもいろんなことも修復されて、いつか美しく枯れた男の“強さ”の部分もまた見られたらいいなと思うばかりなのである。