「オリジナル映画の火を灯し続けるためには」 原作・脚本・監督 内田英治 緊急インタビュー

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マッチング

『マッチング』

著者
内田 英治 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041145029
発売日
2024/01/23
価格
814円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「オリジナル映画の火を灯し続けるためには」 原作・脚本・監督 内田英治 緊急インタビュー

[文] カドブン

■描きたいストーリーと見てもらう工夫

――オリジナルへのこだわりもあると思いますが、過去には漫画原作の『ダブルミンツ』(2017年)なども手掛けていらっしゃいます。今後、原作ものを手掛ける可能性はありますか?

内田:僕はオリジナルにこだわってるってよく言われますし、自分でもこういうことを言うからそう思われるんですけど、別にこだわってないです。オリジナルをやりたいですけど、絶対オリジナルじゃなきゃいけないっていうのは、まったく思っていません。『ダブルミンツ』は本屋で立ち読みして、絶対俺には書けない物語だなと思って、やりたいと思って、自分で出版社に連絡してやったんですよ。例えばこのあいだ、ドラマで湊かなえさんの作品(※WOWOW「落日」:2023年)で、ミステリーの作家さんのものを初めてやったんですけど、めちゃめちゃ楽しかったです。違う楽しみですね、完全に。もうストーリーはあるわけだから。漫画とか小説って映画にするつもりで(作って)はいないので。それを映画という媒体に落とし込む作業はなかなか楽しいですよね。ただ、一抹の寂しさもあるのは否めないですよね。

――自分が最初から作り上げたものではないっていう点が寂しいということでしょうか?

内田:やっぱり0から1が自分じゃないっていう、寂しさと悔しさ。嫉妬しちゃうんですよね、すごいストーリーを見ると。なんで俺これ考えられなかったんだろう、すごいなあ、って。特にミステリーはね、みんなすごいんで。だからやっぱり数字が上がるのは、オリジナルのほうがうれしいですね。やったことないからわからないですけど、大ヒット原作をやって何十億って興収が上がっても一抹の寂しさはあるかもしれないですね。

――原作ものとオリジナルの違いや、それぞれの利点と難しさなどありますでしょうか。

内田:今回感じたのは、スクリーンのキープですかね。それは演出の範疇じゃないかもしれないですけど、それは全実写(作品)が抱えてる問題だと思います。ひと昔前より圧倒的に(スクリーン数が)減るスピードが早いから、口コミが全く効かないかなっていう。僕がインディーズ映画やってた8年前、9年前って最初は客5人しかいないのに、2週間後には満員がつづくみたいなことがあったんですよ。口コミで2週間かけて。それがめちゃめちゃ楽しかったですし、インディーズ映画の醍醐味だったんですけど、それが今ほぼ無いので、やっぱり(知名度を)積み上げてきた大人気原作もの、口コミを必要としないそういう作品に一気に囲まれて、しぼんでいくっていく実写映画をどうしていくか。それも今までは考えなくていいっていう教育を受けてきたんですけども、考えなかった結果が、日本の今のオリジナル実写の結果なんで。やっぱり考えなきゃいけないんだなと思って。名古屋に行ったときに映画館の支配人を食事に誘っていろいろ聞いたんですよ。実際アニメとか大作実写とかオリジナル実写の現状みたいなものをめちゃめちゃ取材して。だから結構詳しいですよ。でもそれはやっぱり課題だと思いますね。結局人が入らなければ撮らせてくれないわけじゃないですか。興収1億もいかないような映画を連発してたら、絶対撮らせてくれない。それは寂しいんで、お客さんがいっぱい来るようにがんばる、がんばるというか考える。いっぱい来るように考えつつも、自分が描きたいストーリーを並行して行くのが重要かなと思いますね。例えば僕はSNSとかでも、結構あえて数字を出すんですよ。それがいちばん観てる人たちにわかりやすいから。「数字ばっかり出して、いやらしい」とかよく言われるんですけど。やっぱり映画って神聖な芸術であり、そういう事を考えちゃいけないっていう文化がいままであったので。「神聖以前に、もう映画が撮れなくなっちゃうよ!」とは思いますね。映画は芸術であると同時に娯楽でもあるわけですから、やはり見てもらう工夫が必要だと思います。

――原作もの、大作となると原作が売れて、など開発にも時間がかかると思います。アニメもそうですが、ファンダムが築かれるまでとか、オリジナル作品だと開発のスピードも勝負ポイントの1つかと思います。「マッチング」の開発スピードは速かったですか?

内田:開発スピードは速かったですね。もっと早く撮ろうとしてたくらいです。
スピードはめちゃくちゃ重要ですね。

――マッチングアプリも含め、流行もサイクルが速くなっていく一方ですよね。

内田:映画の企画・開発・撮影のスピードがドラマとか配信のスピードに追いついてないっていうのはすごく問題だと思ってます。すごく時間かかって、映画が公開されるころには流行りが終わってる、みたいな。

――2年先を見ないといけない。

内田:2年で公開されないじゃないですか。大体3年くらい。3年って高1がもう卒業するくらいで、ブームが1つ過ぎ去るわけだから。企画が通るのが遅すぎる。オリジナルはそれが速くできる。原作ものはいろんな権利が分担されてるから、時間かかるでしょうけど。オリジナルはポンポンとやればもっと面白い物ができるんじゃないかな、と思います。
あとオリジナルっていうと今までは映画祭だったわけですよ。映画祭に出す映画、いわゆるアートハウスが多くなってしまった。僕もかつてそうでした。でも今は日本の津々浦々の娯楽に飢えてる観客たちに映画を届けたいとも思います。
僕の場合ですが、昔はオリジナルで映画祭をまず狙う。その後国内公開するんですけど、都市部の一部の人だけに向けた作品になって、評価はされるけど、それで終わる、みたいな。そうじゃなくて九州とかいろんな地方に、ちゃんといるじゃないですか、観てくれる人が。「マッチング」で自分の映画に今まで来なかった大学生のカップルとか来るわけですよ。キャッキャして観てくださってるのを見ると、うれしいですよね。ギャーとか言いながら。客層が全然違うので。オリジナルを見る客層を広げたいですね。広げればおのずと(興行収入は)ついてくるかもしれないですし。

「オリジナル映画の火を灯し続けるためには」 原作・脚本・監督 内田英治 緊...
「オリジナル映画の火を灯し続けるためには」 原作・脚本・監督 内田英治 緊…

■映画に興味がない田舎の中学生とか高校生に届けたい

――その先は、日本のマーケットだけでなく、世界に目を向けることも必要になってきますか?

内田:オリジナルの課題として、十何年前から日本国内は終わりだからアジアに出なきゃいけないんだという問題意識はほぼすべての映画人は持っていて。やるやる詐欺みたいな、「グローバルに展開しなきゃいけないんだ」って言って、なにもうまくいってないし、やってもいないので、そのやるやる詐欺は終わろうとしているのかなと思います。動き始めている人多いですよね。国内でアニメとかにスクリーンを食われるぶんには、海外で稼ぐとか本当にそれも考えないと生き残れないのかもしれないですね。でも簡単にはできないから。韓国も映画業界が縮小してますし。「サイレントラブ」はタイで50館で公開されて、ラオスでも公開されたんですけど、国内に4つしかない映画館全部で上映されました。そういうのもありだなって。東南アジアでも映画の値段が上がってるので、ビジネスという部分ではそんなに悪くないと思いますし、とくにオリジナルは海外展開は考えたほうがいい。配信の影響で映画館っていうのは、今までの形態では難しくなる一方なわけですから。それは抗えないと思います。

――映画館の数に対してコンテンツが多くなってきていることも影響していますか?

内田:たぶん、映画館が増えることはもう無いだろうと思う(もちろん東南アジアなどは別で)。あとはオリジナルの配信映画とかドラマをいかに増やしていくかってことになるでしょうけど、それはまた話が別ですからね。映画やりたい人っていっぱいいるわけだからなかなか難しいですけど、外国の人も観てくれる普遍性をさらに足すっていうのもあり。オリジナル映画ってもう映画祭向けの映画か、大衆向けの映画か完全に分かれているから、それをどう使い分けていくか。

――これまでのお話を踏まえてオリジナルで勝負するために必要なことはなにかありますでしょうか?

内田:なんですかね……。でも圧倒的に面白いストーリーは絶対だと思うんですよね。最近思ったのは、ラブストーリーをやって、ラブストーリーって普遍的なものじゃないですか。すごく心理を描くのが難しいし、時間もかかる。こういった(「マッチング」のような)ジャンル系の作品はそのぶん尖れるし、アイデア次第では早い。実験的なこともできるし、ジャンル系作品のほうが今後作りやすいかもしれないですね。

 ヒットするために必要なのは、やっぱり尖る。尖ることと、テーマ性が普遍的であること。尖りっぱなしの作品だとインディーズ映画と一緒なんで。3000人くらいしか観ない。僕は8年ぐらい前は3000人観たらヒットって世界にいたんです。やっぱり250館以上の公開となってくると、尖るだけじゃダメだなって思いますね。なぜなら映画に興味がない人たちにも観てもらわなきゃいけないから。都市部のシネフィルじゃない人たち。そういう人たちの気持ちを考えるっていうことは、とても大きいですよね。今までは考えなくていいって。インディーズ映画は考えなくていいし、映画監督はそういうことを考えなくていいって。でも考えたほうがいいですよね。

――観客の方を向いてない作品っていうのは今はもう……。

内田:自分が中学時代・高校時代って、シネフィルではありましたけど、娯楽映画ばっかり観てて。ジャッキー・チェンとか、「ダイ・ハード」(1988年)とか、「グーニーズ」(1985年)とか、そんな映画ばっかり観てて、まあ大人になってから、いわゆるアートハウスの映画を見始めたりしましたけど。やっぱり都市部のシネフィルをターゲットにした映画っていうのもいっぱいあると思いますし、そういうのもやってみたいと思うんですけど、今の僕はそういうフェーズじゃないかもしれません。最近は田舎の、自分みたいな子どもだった中学生とか高校生とかが、なにげに観たら、「おお、映画って面白いじゃん」っていう作品をやりたいです。例えば「ミッドナイトスワン」とかも、映画祭に行って、大学生とかから「あれ見て映画監督になろうと思いました」とか言ってもらえるとめっちゃうれしい。今までそんなこと考えてなかったわけですから。

――最後に今後の展望をお聞かせください。

内田:ジャンル系面白いなって今回思って。もともとジャンル系好きなので、娯楽という部分をもうちょっと突き詰めたいなとは思ってますね。ヒューマンドラマは時間をかけてゆっくりと。普段は娯楽に振ったものを作りたい。なぜなら最近はテーマ性の強い映画が多いなと思って。社会がそういうテーマ性を必要としているからだと思うんですけど。僕が中学時代は楽しい映画を観たかったので。田舎のヤンキーでも見れるような作品が極端に少ない。そういう人たちが観てくれて、「あ、こんなことあるんだ」ってひらめく映画をオリジナルでやりたいと思いますね。あとは今後やっていきたいのは海外との共作ですかね。これがいちばん大きいですね。

■プロフィール

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「オリジナル映画の火を灯し続けるためには」 原作・脚本・監督 内田英治 緊…

内田英治
1971年生まれ、ブラジル出身。99年に脚本家デビュー。2004年に「ガチャポン!」で映画監督デビュー。20年公開の「ミッドナイトスワン」では第44回日本アカデミー賞優秀監督賞・優秀脚本賞を受賞し、高い評価を得た。近年の映画監督作に「異動辞令は音楽隊!」(22年)、「サイレントラブ」(24年)などがある。

KADOKAWA カドブン
2024年04月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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