『成瀬は信じた道をいく』
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大津ときめき紀行2 びわ湖さんぽ
[レビュアー] 宮島未奈(作家)
大津駅から大津港ミシガンのりばまでは徒歩十五分ほど。広々とした中央大通りをまっすぐ下れば琵琶湖が見えてくる。
ミシガンのりばはバスツアーの高齢者と修学旅行中の小学生で賑わっていた。妙に視線を感じるなと思えば、成瀬の衣装が注目を集めているのだった。
「大津港にはガチョウが五羽住んでいる」
「そういえば、成信のカバーイラストにも載ってますね」
ガーガー鳴きながら水面を泳ぐ姿がかわいらしい。
出港の十分前になり、ミシガンパーサーによる説明を聞いた後、桟橋をわたってミシガンに乗り込む。
「成瀬さん、いつもありがとうございます」
「今日も絶好のミシガン日和だな」
成瀬は慣れた様子で船内スタッフと挨拶を交わしていた。
「まずは三階に上がろう」
三階のステージでは出港式が行われる。選ばれし客がドラを三回鳴らし、出港するのだ。
「このドラ、鳴らしたい人!」
修学旅行生が元気よく手を挙げる。さすがに大人は遠慮したほうがいいだろうと思っていたら、成瀬は天を突き刺す勢いでまっすぐ手を挙げていた。
「じゃあ、青い服の君」
選ばれたのは前方に座っていた小学生だった。成瀬は「残念だ」と悔しそうに言う。
「しかし決まってしまったものはやむを得ない。次に期待しよう」
ミシガンが動き出すと、成瀬はデッキに出て、大津港から手を振る人々に手を振り返していた。
「さて、外輪を見にいこう」
わたしたちは成瀬に従い、二階の船尾に向かった。外輪で動く現役の船は世界的にも珍しいという。
「わたしは巻き込まれ防止のために近寄らないようにしているが、そこの張り出したスペースからじっくり見ることができる」
「わぁ、すごいですね!」
赤い外輪がダイナミックに回る様子は圧巻だ。Oさんも興奮気味に写真を撮っている。
「湖面がキラキラしている様子は『こめキラ』と呼ばれている」
滋賀県民でも聞き馴染みのない言葉だが、ミシガンを運営する琵琶湖汽船がこめキラ呼びを推しているのだ。わたしも協力すべく「#こめキラ」のタグをつけてXに投稿した。
その後も成瀬は四階の操舵室や、三階のロイヤルルーム、一階の恋人の聖地といったスポットをよどみなく案内してくれた。
「ちなみに、わたしが住むマンションもにおの浜観光港から見えるんだ」
「そうなんですか?」
成瀬がOさんに自宅を紹介する。これからミシガンに乗る人には、ぜひ成瀬のマンションを予想してみてほしい。
九十分間のミシガンクルーズを楽しんだわたしたちは、すぐ近くの浜大津アーカスにある「湖の駅浜大津」のフードコートで昼食をとることにした。レジで当日のミシガン乗船券を見せると、飲食代が一〇パーセント引きになる。
成天では店の名前を出さなかったのだが、なぜかこの店であることがバレている。びわ湖大津観光協会のWebサイトで「成瀬が近江牛コロッケ定食を食べた湖の駅浜大津」と「紫式部が源氏物語を書いた石山寺」が同じページで紹介されているほどだ。
「ミシガン、思った以上に楽しかったです!」
コロッケを食べながらOさんが言う。わたしもこれまでミシガン初乗船のお客さんを何度か案内しているが、みんな喜んでくれている。
「ミシガンは期待を裏切らないからな」
成瀬も満足そうにうなずいた。
フードコートの隣にはお土産売り場がある。ミシガンを模した箱に入ったミシガンチョコクランチは大人気だ。赤こんにゃくや鮒ずしといった滋賀名物も豊富にそろっている。
「こんなにたくさんあると迷いますね! お二人のおすすめはどれですか?」
「職場で配るならひこにゃんのお菓子がいいだろう」
ひこにゃんが住むのは大津ではなく彦根だが、滋賀のアイコンとしてこれほどわかりやすいものはない。
「自宅で食べるなら叶匠壽庵の『あも』がおすすめですよ」
羊羹のような形をした和菓子で、あんこに求肥が包まれている。つぶあんとこしあんの定番商品に加え、四季折々の限定フレーバーがあるので飽きがこない。わたしも自宅用に一つ買い求めた。