クライアント都合でスケジュールが遅れた!締切に間に合わない…どうするのが正解?

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クリエイター六法 受注から制作、納品までに潜むトラブル対策55

『クリエイター六法 受注から制作、納品までに潜むトラブル対策55』

著者
宇根 駿人 [著]/田島 佑規 [著]
出版社
翔泳社
ジャンル
工学工業/電子通信
ISBN
9784798184142
発売日
2024/03/21
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【毎日書評】クライアント都合でスケジュールが遅れた!締切に間に合わない…どうするのが正解?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

クリエイターといっても多種多様ですが、なにを専門にしているとしても、大小さまざまなトラブルはつきもの。とはいえ、“もしものとき”の対処法を身につけておくことは決して容易ではありません。

だから困ってしまうわけですが、そこで参考にしたいのが『クリエイター六法 受注から制作、納品までに潜むトラブル対策55』(宇根駿人、田島佑規 著、翔泳社)。

本書は、クリエイターの皆様がトラブルの予防・対応をするにあたって参照するための、常に手元に置いておきたい辞書やお守りのような書籍を作りたいという思いから生まれました。

まさに法律家における六法全書のような存在を作りたかったので、『クリエイター六法』というタイトルになったというわけです。(「はじめに」より)

こう説明するふたりの著者は、デザイナーやクリエイターを対象に法務サポートを提供するサイト「デザイナー法務小僧」を運営しているという弁護士。2018年6月のサイト開設以降、のべ200人以上のクリエイターからの相談を受けてきたのだそうです。

その過程においては、クリエイターの方々の法務需要の高さとコスト面とのギャップをいかに埋めるかが課題だったそう。そのためにどのようなサポートができるかと試行錯誤を重ねるなか、たどり着いた答えは以下のようなものだったのだとか。

・クリエイターの方が直面する可能性のある代表的な事例を共有することで、事前に危険な場面を察知し、トラブル予防に繋げていただくのがよいのではないか

・不幸にもトラブル事例に直面した際の対応策や今後の予防策を共有することで、必ずしも弁護士などの専門家に頼らなくとも最低限必要な対応はできるようになっていただくのがよいのではないか(「はじめに」より)

つまり、それを具体化したのが本書だということです。きょうはそのなかから、「先方都合でスケジュールに遅延が生じた場合」の対処法に目を向けてみたいと思います。

相談事例:スケジュールの遅延は誰のせい?

ここで紹介されているのは、フリーランスのウェブデザイナーであるXさんの事例。

XさんはY社から、コーポレートサイトの制作を請け負ったのだそうです。請け負うにあたっては、案件開始前にサイト制作に関する業務委託契約書を締結し、業務内容、成果物、納期、報酬額を定めたのだといいます。

当初は、制作も順調に進んでいたようです。ところが繁忙期と重なってしまったのか、Y社担当者の動きは次第に遅くなっていき、事前に想定していたスケジュールに遅延が生じてくることに。ちなみに契約書では、納期は定めたものの、制作スケジュールに関する合意までは明確に行っていなかったようです。

そのためXさんは、「このままでは納期に間に合わなくなるかもしれない」と不安になってきており、どう対応すればよいのか悩んでいるというのです。(84ページより)

対応策:クライアントにスケジュールや役割分担の責任を負わせる

納期を合意している以上、相手の都合によりスケジュールに遅延が生じていると思われる場合でも、納期までに修了すべき業務や成果物の納品が間に合わなければ、クリエイター側の責任となる可能性があります。(85ページより)

そこで、まずはサイト完成のためには、「Zさんの協力が必要不可欠なので、ご協力いただきたい」と伝えて急かすことが大切。場合によっては、複数回連絡してみてもいいそうです。

そのうえで、納期に本当に間に合わない見込みが出てきたということであれば、その時点以降の制作スケジュール及びそれぞれの役割分担と、スケジュール通りに作業が行われなかった場合は納期に責任を負えないことをお互いで合意することが重要です。(85ページより)

そうした合意ができれば、先方がスケジュールを守らなかったため納期に間に合わなかったとしても、クリエイター側は責任を負うことを回避できるわけです。(85ページより)

予防策:案件開始前にスケジュールまで明確に合意するのがおすすめ

重要なのは、案件開始前に、納期だけでなく制作スケジュール及びそれぞれの役割分担まで決めておくこと

通常、具体的なスケジュールまで合意しておくことは必ずしも多くないかもしれません。しかしクリエイターの場合、クリエイティブチェックや先方からの資料提供など、案件遂行に関しては“先方の協力”が重要である場合が多いもの。そのため、制作スケジュールや役割分担まで明確に合意してくことが大きな意味を持つということです。

なおクライアントによっては、「制作業務を委託したのだから、あとは丸投げで成果物が完成する」と思っている場合もあるので注意が必要。

ちなみに以下の条項例のように、制作スケジュールや役割分担を合意する方法として、契約書にテキストで記載するパターンもあるようです。

第〇条(役割分担・スケジュール)

本件業務を遂行するにあたり必要となる甲乙各自の作業内容や具体的なスケジュール等については、別途、甲乙間の協議に基づき作成される見積書又は仕様書において定められるものとする。

甲及び乙は、前項において定められた各自の実施すべき作業を遅延し、又は、適切に実施しない場合、それにより相手方に生じた損害の賠償や、工数増加に基づく委託料の増額を含め、当該遅延又は不実施について相手方に対して責任を負う。(87ページより)

一方、契約書上は「制作スケジュールや甲乙の役割分担は、甲乙協議のうえ別途定める」とだけ記載しておき、別途合意するというパターンでも問題ないそうです。

とくにデザイナーなどに初めて制作業務を依頼するクライアントの場合には、具体的に制作業務がどのように進んでいくのかイメージを持てていないことも少なくありません。そのためこうしたクライアントには、よりていねいに制作スケジュールや役割分担を伝え、別途に合意しておくことが重要であるといいます。(86ページより)

初めから通読しても、あるいは気になる部分や関心のある部分だけを読んでも役立つ実用性の高い一冊。

冒頭の著者のことばにあったように、デスクサイドに置いておけば、予測していなかったような自体が起きたときにも大きく役立ってくれることでしょう。

Source: 翔泳社

メディアジーン lifehacker
2024年4月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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