吸血鬼が「語る」という異彩さ 原作者もトム・クルーズに拝跪
[レビュアー] 吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)
「私がヴァンパイアとなったのは、25歳の時、1791年のことだ」。彼は語り始める。200年の間、アメリカからヨーロッパ、そして再びアメリカへと、夜の闇をさまよい続けたヴァンパイアの苦悩、孤独、愛、血への渇望を。
吸血鬼(ヴァンパイア)映画は100年以上前から数限りなく製作されてきたが、それらの中で異彩を放っているのが’94年『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』だ。その原作が’76年に発表された本書である。
ルイはニューオリンズ郊外の大農園の若き当主。美しいヴァンパイアのレスタトに襲われ、失血死の直前にレスタトの血を飲み永遠の命を得た。ルイは5歳の少女クロウディアを襲い、レスタトは彼女に自分の血を与える。3人は長い年月を共に生きるが、外見は幼い美少女のまま残忍なヴァンパイアに成長したクロウディアはレスタトを殺す。だが、レスタトは本当に死んだのか。二人はヨーロッパへ渡る。夜の地中海を見たルイの「その水が青くあって欲しかった。水は夜の色をしていた」という一文が闇の中でしか生きられない運命の哀しみを感じさせる。
映画化でレスタトがトム・クルーズ、ルイがブラッド・ピットと発表されると「トムは完全なミスキャストだ」という否定的意見が続出。当時のトムは『トップガン』『レインマン』『7月4日に生まれて』『ア・フュー・グッドメン』等の話題作ヒット作に出演し、若手トップスターとなっていた。原作者も彼の配役に反対したが、映画完成後は「トムこそ私のレスタト」と絶賛。映画を観れば分かるが、頬骨が浮き出るほど体重を落とし、ぞくぞくするほど妖艶かつ冷酷なヴァンパイアになったトムのなんと魅力的なことか。
吸血鬼映画は恐ろしさと不気味さに走り、B級C級作品になってしまいがち。名匠コッポラでさえ、’92年『ドラキュラ』では新味に欠ける演出で恐怖を強調し、豪華出演陣と莫大な製作費にしては今一つの作品となってしまった。吸血鬼がインタビューでその内面を吐露するという斬新さと耽美的な世界。原作と映画化作品は、吸血鬼もののイメージを見事に一新した。