AI時代に「経理」として生き残る人が持っているスキルとは?

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経理の一流、二流、三流

『経理の一流、二流、三流』

著者
石川 和男 [著]
出版社
明日香出版社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784756923219
発売日
2024/03/13
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【毎日書評】AI時代に「経理」として生き残る人が持っているスキルとは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

過去にも著作をご紹介したことがありますが、『経理の一流、二流、三流』(石川和男 著、明日香出版社)の著者は経理担当役員として建設会社に勤務するかたわら、税理士として開業し、簿記講師、大学講師、人材派遣会社など2社の取締役をも務める人物。

つまり本書においては、自身の原点である経理の仕事についてさまざまなノウハウを凝縮しているわけです。

本書を読めば、AI時代に生き残る戦略、そして経理の将来像、必要なスキルや、そのスキルを身につける勉強法などが分かります。

またタイトルどおり、同じ業務でも一流か二流か三流かを認識することで、スキルアップ、キャリアアップ、その他大勢から抜け出す方法も分かります。(「はじめに」より)

こう断言できるのは、民間企業の経理担当として30年ものキャリアを持っているから。その間に一般社員から係長、課長、部長、取締役とそれぞれの立場を体験してきており、さらには現在起きている経理の問題も把握できているというわけです。

税理士業務を行うことで経営者の資金繰りや財務状況の悩み以外にも、経営や人手不足問題、働き方改革関連法案の話などの相談に乗ることにより、AI時代、能力主義の現状を把握し、解決策を見出してきました。

講師業も20年以上続けています。専門学校では24歳から80歳までと幅広い受講生、大学では高校を卒業したばかりの新入生と接し、広い視野で困りごとの相談に乗ることができています。(「はじめに」より)

こうしたバックグラウンドをもとに書かれた本書のなかから、きょうは経理の原点について触れたChapter1「一流の『経理マインド』とは」に焦点を当ててみたいと思います。

経理の仕事すべてがAIに取って代わられるわけではない

経理の仕事が、税理士、行政書士、司法書士などの士業と並んで「AI時代に消えていく職業」と予測されているのはよく知られる話。とはいえ、すべての業務内容がAIに取って代わられるわけではないと著者は主張しています。

AIに仕事が奪われるか、奪われないかの二元論ではなく、業務によって今後は棲み分けが行われていくのだと。

どのような職種においても「大変だったり、面倒だったりする仕事」をAIが引き受けてくれるということであり、それは経理も同じだということ。

仕訳さえ切れば、総勘定元帳、試算表、損益計算書、貸借対照表まで作れる時代になりました。消費税の軽減税率やインボイス制度にも対応。年々複雑化される会計処理を人の手で行っていたら、大変な労働時間になります。

これらの仕事を手放して、AIにできない仕事をする。

手を動かす仕事から、頭を使う仕事へ。例えば、管理会計や精度の高い資金繰りや損益分岐点売上高の計算などを行っていくのです。(22ページより)

さらに一流になれば、AIを使いこなし、経理面から新たな仕事を生み出すなどのクリエイティブな仕事も行っていくことができるでしょう。つまりAIに仕事を奪われるのではなく、AIのおかげで「時間を割かなければならない業務」に集中することができるということです。(20ページより)

新しい経理の役割

帳簿への記録は、経理部なら必ず行う重要な仕事。「帳簿に記録」の「簿」と「記」の字をとって「簿記」と表現するところからも、その重要性が推し量れます。

取引が発生したら、仕訳帳と総勘定元帳に記録をしますね。

現役経理の方には「今さら」のお話ですが念のため、簿記の取引は、一般の取引と少し異なり、資産・負債・純資産・収益・費用の5項目が増えたり、減ったりすることを取引といいます。

そのため、事務所を貸したり駐車場を借りる契約を結ぶだけ、商品を注文しただけでは、簿記上の取引にはなりません。収益や費用が発生していませんし、資産、負債などの増減もないからです。

一方、泥棒が入ったり、火災が起きても、一般には取引とはいいませんが、簿記上は取引になります。なぜなら、ガラスが割られ、ドアノブが壊されたら、修繕費という費用が増加します。事務所が火事になると建物や備品が消失し、資産が減少するからです。(24〜25ページより)

これらが増減したとき帳簿に記録するのは、企業を取り巻く利害関係者の方々に、「うちの会社は、こういう状況ですよ」と報告する必要があるから。

そのためには、資産・負債・純資産・収益・費用が、増えたり減ったりする取引をひとつ残らず、帳簿に記録しておかなければならないのです。

いうまでもなくパソコンが普及するまでは、それらすべてを手書きで記録していました。

しかしご存知のとおり、現在は会計ソフトが主流。仕訳さえ入力すれば、総勘定元帳、試算表のみならず、現金出納帳や受取手形記入帳、商品有高帳など、10種類以上ある補助簿も自動で作成されるのです。ソフトによってはキャッシュ・フロー計算書まで自動で作成されるので、膨大な時間短縮になったわけです。

ただし時間が短縮された一方で、「それぞれの意味がわからない」「中身がわからない」「人に伝えられない」経理担当者が増えたのも事実であるようです。

仕訳さえ入力すれば、記録、集計は会計ソフトがすべてやってくれるのです。

記録、集計しかできない社員は要らなくなります。

それでは、すべての経理社員は要らなくなるのか?

そんなことはありません。

あらゆる帳簿から導き出された数字をもって、経営者に進言できる人は必要とされます。(27ページより)

今後も、AIの進化に伴って、記録、集計する仕事が奪われていくことになるでしょう。しかし、営業にも企画にも人事にもできないこと、すなわち「数字を通して会社全体の状況を知ること」ができるのは経理だけでもあります。

このまま景気の波に乗って営業を仕掛けるか、会社の危機なので資金繰りに走るか、設備投資に回すか、それらのことにいち早く気づいて戦略を練り、経営陣に進言できるのは経理担当者だけだということ。

したがって、今後は「戦略を経営者と語り合える経理担当者」が必要になるはずだと著者は述べているのです。(24ページより)

民間企業の経理担当、税理士、講師という3つの視点から、経理職についてわかりやすく解説した一冊。経理に携わっている方には、きっと役立ってくれるはずです。

Source: 明日香出版社

メディアジーン lifehacker
2024年3月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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