『全員“カモ”』
- 著者
- ダニエル・シモンズ [著]/クリストファー・チャブリス [著]/児島 修 [訳]/橘 玲 [解説]
- 出版社
- 東洋経済新報社
- ジャンル
- 社会科学/経営
- ISBN
- 9784492047606
- 発売日
- 2024/02/28
- 価格
- 1,980円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
少子化・原発・アベノミクス 騙され続けた理由がわかる
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
バスケットボールの動画を見てパスの数を数えるよう求められた人は、画面をゴリラ(の着ぐるみ)が横切っても気づかない―この「見えないゴリラ」の実験で名を馳せた米国の心理学者コンビの共著第2弾。
1作目の『錯覚の科学』(木村博江訳、文春文庫)では人間の知覚知力の狭さとその危なさを再認識させられたわけですが、今度の『全員“カモ”』では、そういうヒトの脳の限界を利用活用悪用する詐欺師や企業、研究者、政治家、その他いろいろの手口、その基礎になってる心理的要因、そして騙されないための手法までがあれこれ幅広く開陳されます。
前半で示されるのは、騙される側の4つのハビット(癖や習慣)で、それは関心のあることばかりに気を取られて他を見ない[集中]、テキトーな自説や記憶に執着して、それを裏付けるかのような事例だけを挙げたり捏造したりする[予測&思い込み]、正誤を判断するために不可欠な確認の手間を惜しむ[効率]。
後半では騙す側の4つのフック(引っ掛け)として、言い分を裏付けるようなデータを綺麗に整える[一貫性]、見覚えのある名を騙ったり主張を繰り返して浸透させたりする[親近性]、正しそうな数値や確かそうな約束を打ち出す[正確性]、小さな取り組みで大きな効果が出ると唱える[有効性]が説かれる。
全篇通して語り口はエッセイ調だし、実例は豊富で、身近なオンライン詐欺やヤラかした日本人研究者たちの実名も出てきたりするゆえ、するすると読まされて、が、だからこそ頭にいろいろが浮かんでもくる。
まず己が騙されてると腹が立ち、次いでその騙され=騙しがニッポンでも広まり深まってると悟って怖くなり、最後に著者たちの結論へ到達すれば反論したくなる―小さく騙されることを長らく容認し続けてきた結果、「『破滅的にだまされてしまう』という最悪の結果」に至りつつある国が実在しますよ、ここに。