江戸の空気に身をゆだねていたら…どんでん返しの劇的な満足感が!
[レビュアー] 星マリナ(星新一次女)
星新一みたいでおもしろい! 小説新潮連載時に本書収録の作品群を読んでいた私は、なんども感心したものでした。
砂原浩太朗さんは星新一の影響を公言されています。星新一公式サイトにご寄稿いただいた「星新一のDNA」というタイトルのエッセイによると、小学二年生のころに読んだ『ボッコちゃん』を皮切りに、ショートショートのみならず、エッセイやノンフィクションにいたるまで、星新一の書いたものは小学生のときにほぼすべて読まれたのだそうです。とはいっても、文体や世界観が似ているわけではありません。ご本人が意識してまねているわけではないのです。そもそもSF作家と時代小説家では、見ている方向が逆です。
砂原さんの小説は、私たちを数百年前の東京につれていってくれます。本書には、長屋や商店を舞台にした江戸庶民の物語が八編収録されています。読みながら、江戸の風景や空気に同化し、平右衛門やお蝶といった若い男女の心の揺れに同調し、時代のしきたりや風習に同意して、その流れに身をゆだねていると……。
星新一と似ているのは、物語のひっくり返し方の見事さなのです。妾だった母が亡くなり父親にひきとられた娘をめぐる「妾の子」では、たくさんあるカードのなかで、ひっくり返すのはこれだったのかとうなりました。裏長屋出身の男ふたりの再会を描いた「幼なじみ」も、見事としかいいようがないです。
私が星新一の娘だから、人よりも強くそう思うのかもしれませんが、どんでん返しの結末というのは、劇的な満足感があります。そんな満足感をなんども味わえる短編集が本書『夜露がたり』なのです。
個人的な趣味ですが、それぞれの作品について「強いていえば星作品のどれに近いだろうか」と、あとからじっくり考えるのもたのしいです。なんといっても砂原さんの無意識下なのですからね。表面的なことではありません。本書収録「死んでくれ」の辰蔵の目が、星新一の「少年と両親」(新潮文庫『未来いそっぷ』所収)の少年の目と同じであると気づいたときには鳥肌がたちました。時代も設定も物語もこれほどちがうのに、読者にむける目が同じだなんて、なぜこんなことが起こるのだろうかと、かなりうろたえてしまいました。
作家の奥ふかくにひそむもの、これがまさしく先人作家から受けついだDNAということなのでしょう。