鮎川哲也賞受賞作家、作家・川澄浩平さんがおすすめする「大雪で家から一歩も出る気にならないとき」の本とは? ブックガイドエッセイ『ネガティブ読書案内』

エッセイ

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眠れなくなる宇宙のはなし

『眠れなくなる宇宙のはなし』

著者
佐藤 勝彦 [著]
出版社
宝島社
ジャンル
自然科学/天文・地学
ISBN
9784800257642
発売日
2016/09/17
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

大長編ドラえもん10 のび太とアニマル惑星

『大長編ドラえもん10 のび太とアニマル惑星』

著者
藤子・F・ 不二雄 [著]
出版社
小学館
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784091406101
発売日
1990/10/27
価格
550円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

鮎川哲也賞受賞作家、作家・川澄浩平さんがおすすめする「大雪で家から一歩も出る気にならないとき」の本とは? ブックガイドエッセイ『ネガティブ読書案内』

落ち込んだときこそ本を読もう! あの人・この人に聞いてみた、ネガティブな夜のおすすめ本リレーエッセイ。

「大雪で家から一歩も出る気になれない時」

案内人:川澄浩平さん

朝、カーテンを開け、雪が降っていることを知る。風はないが、視界がきかなくなるほどの大雪。道路や線路は遙か雪の下に埋まり、交通機関は最早まともに機能しないだろう。とても静かに、しかし確実に、人々は閉じ込められていく――こういう日は、ものすごく遠くて、途轍もなく巨大な世界について思いを馳せてしまう。
夜空を見上げ、天の理を知りたいと願う生き物は人間だけだ。地球は丸い。そして、太陽の周りを一年かけて回る。宇宙は今も膨張を続けていて――今では当たり前のように知られている常識。しかし、現在よく知られている宇宙の姿や成り立ちを合理的に説明できるようになるまで、人類は途方もない年月を要した。

ここで紹介する宇宙物理学者、佐藤勝彦さんの著書『増補改訂版・眠れなくなる宇宙のはなし』は、単なる科学ノンフィクションではない。古代から現代に至るまで時代を代表する天才たちが、人類最高の武器である知能を以て宇宙の真の姿に迫っていく壮大な物語として、非常にわかりやすく書かれている。
自然界の法則を神話ではなく、合理的な思考によって真実を導こうとする自然哲学こそ、現代の宇宙観の根底にあるものだ。しかし、それに釘を刺した古代キリスト教会の教父、アウグスティヌスの主張がとても興味深い。
「この宇宙は無から生まれた」「宇宙が始まる前に時間はなかった」――無から有を生み出せるのは神をおいて他にはないと、その偉大さを称えようとした結果、合理性を重んじる現代宇宙論の考えと一致してしまう……なんとも「物語的」ではないか。

『増補改訂版 眠れなくなる宇宙のはなし』
佐藤勝彦/著(宝島社)

宇宙にまつわる話といえば、子どもの頃から『のび太とアニマル惑星』が大のお気に入りだ。大長編ドラえもんは宇宙を舞台とした物語がいくつかあるが、その中で私はこの作品が一番好きである。
冒頭から、パジャマ姿でピンクのもやの中をさまようのび太。昔のドラえもんは、どこか不気味だった。辿り着いた先は、地球を遙かに凌駕する科学力で、争いもなく豊かな生活を送る動物たちの星。彼らはみな高度な知能を有し、二足歩行する。優れた環境技術で今流行りの「持続可能な社会」を完全な形で実現している理想郷に、人間は一人もいない。
動物たちは、ある神話を信仰している。太古の昔、動物たちは月で暮らしていて、ニムゲという悪魔族に虐げられていた。それを哀れに思った神さまが、月からアニマル惑星まで「光の階段」をかけ、動物たちを移住させたというものだ。実はこの神話、彼らの世界においてまったくの作り話ではない。大昔、動物たちは科学の力で、ニムゲたちの支配する月から逃れてきたのだ。

『大長編ドラえもん10 のび太とアニマル惑星』
藤子・F・不二雄/著(小学館)

神とは、光の階段とは、ニムゲの正体とは一体なんなのか……子どもの頃、のび太たちの大冒険に胸を躍らせつつも、どこか空恐ろしかった。この物語は漫画も映画も、大人になってからも何度か見返している。

川澄浩平(かわすみ・こうへい)
1986年北海道生まれ。北海道在住。北海学園大学卒。漫画原作者として活躍したのち、2018年に第28回鮎川哲也賞を受賞、受賞作を改題した『探偵は教室にいない』でデビュー。ささやかな日常の謎を通して、札幌に住む少年少女の心の機微を瑞々しい筆致で描き、好評を博した。他の著作に『探偵は友人ではない』がある。

文芸ステーション
集英社 文芸ステーション 2024年2月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

集英社

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