「教育虐待」がもたらす深刻な弊害…中学受験で子どもを毎日叱っていた親が口にした“後悔”とは

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反抗期まるごと解決BOOK

『反抗期まるごと解決BOOK』

著者
親野 智可等 [著]/ぴよとと なつき [イラスト]
出版社
日東書院本社
ジャンル
芸術・生活/家事
ISBN
9784528024298
発売日
2023/07/10
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「教育虐待」がもたらす深刻な弊害…中学受験で子どもを毎日叱っていた親が口にした“後悔”とは

[文] 辰巳出版

中学受験に“成功”しても残る「教育虐待」の弊害

──いったん崩壊した親子関係は、子どもが大人になってもなかなか修復できないのですね。もし、中学受験に成功していたら結果は違っていたと思いますか? 良好な親子関係は築けたのでしょうか?

そうとも言えないでしょう。これは東京都出身で某県にある大学に通うCさんという男性の例ですが、彼は小学3年の頃から中学受験の塾に通わされていて、毎日長時間勉強した結果、D校という超有名進学校に合格しました。でもギリギリの滑り込み合格だったそうで、中学1年の最初の試験で学年ビリに近い成績を取ってしまいました。小学校では常に上位3位以内をキープしていた彼にとってはかなり屈辱的な経験で、精神的ショックは大きかったそうです。しかも、その結果に激怒した両親によって家庭教師を付けられ、受験勉強と同じくらい勉強漬けの生活を強いられたそうです。

──聞いているだけでつらい気持ちになりますね。中学に入ったばかりの子どもにはとても過酷な経験だったのではないでしょうか?

そうだと思います。結局、中学・高校の6年間の成績は底辺のままだったそうです。本人が言うには、鬱屈とした思春期を過ごしたせいで性格がゆがんでしまい、親子関係が悪化したのだとか。結局は両親から離れたい一心から、反対を押し切るかたちで地方の大学に進学したそうです。

──中学受験は成功しても失敗しても、親御さんの気持ちが裏目に出てしまうことがあるのですね。

この手の話はメディアではなかなか報道されませんが、実は多くの親子が似たような状況に陥っていると思われます。中学受験に向かない子を無理に勉強させると、とても大きな弊害を生みます。向かない子は高校受験、大学受験、就職試験で勝負した方がより良い人生を送れるのではないでしょうか。

──ちなみに、中学受験に向いているのはどのようなお子さんですか?

まず、目標達成に向けて勉強に取り組むことができる自己管理力の高い子ですね。あとは高い学力と勉強が好きという気持ちも大事です。そこには精神年齢の発達も関係していて、個人差はありますが、小学生の段階だと発育の早い女子が有利と言われています。それでいくと、男子で早生まれの子は不利ですよね。そういう子の場合は、高校受験や大学受験で勝負した方がはるかに良い。無理して中学受験にこだわる必要はないと思います。

狭いエリート意識にとらわれず、子どもの人生を大局的に見る

──子どもが中学受験に消極的なのは、やる気の問題だけでなく「発育」という身体的要素も大きく影響していたのですね。そこを見落としている親御さんは多いかもしれません。

いろんな角度から子どもの適性を判断してほしいと思います。何より強く意識してほしいのは、中学受験で人生のすべてが決まるわけではないということ。残念なことにそこが理解できず、中学受験へのこだわりを捨てられない親たちもいます。以前、娘を名門の私立女子中学に入れたいというお母さんから相談を受けたのですが、入れたい理由が自分と母親に加え、親戚やママ友の多くがそこの中学校の出身だから、というものでした。とても切羽詰まった表情をされていて、私としてはそこまで深刻なことかな? と疑問に思わなくもなかったのですが、おそらく当人は狭いエリート意識の中でがんじがらめになっていたのでしょう。

──同じような境遇の人たちとばかり触れ合っているので、視野を広く持つことができなくなっていたのですね。

子どもの幸せを考えるなら、人生を大局的に見なければ。狭いエリート意識にとらわれず、いろんな人生を見聞きして、知見を広げるのも親の役目だと思います。中学受験は自分たちのできる範囲で無理なくやればいいんです。この時期は、中学受験よりも良好な親子関係の構築と子どもの自己肯定感の育成を優先するべきだと思います。

──かつては「一流大学を出て大企業に就職」というのが幸せな人生とされていましたが、今ではその価値観もどんどん変わってきましたね。

最新の研究によると、人間が幸せを感じるのは年収や学歴ではなく、自己決定の度合いだそうです。習い事や部活は自分が好きなものを選んだ、進学先や仕事を自分で決めた、など。そういう意識を持っている大人が幸せになっている。ですから、子どもの幸せを願うのであれば、親の価値観を押し付けるのではなく、子どもにやりたいことをやらせて、応援してあげてほしいと思います。

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親野智可等(おやのちから)
教育評論家。長年の教師経験をもとに子育て、しつけ、親子関係、勉強法、学力向上、家庭教育について具体的に提案。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても著名。「子育て365日」などベストセラー多数。Instagram、Threads、X、Blog、メールマガジンなどでも発信中。全国の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、先生や保育士の研修会でも大人気となっている。
Instagram:@oyanochikara

聞き手・構成/さくま健太

辰巳出版
2024年2月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

辰巳出版

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