十数人を殺害、50人以上の女性を暴行…アメリカ史上最大の被害を出したシリアルキラーを特定した驚きの方法とは?

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異常殺人

『異常殺人』

著者
ポール・ホールズ [著]/ロビン・ギャビー・フィッシャー [著]/濱野 大道 [訳]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784105073916
発売日
2024/01/17
価格
2,860円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

十数人を殺害、50人以上を凌辱…アメリカ史上最大の被害を出した連続強姦殺人犯を特定した驚きの方法とは?

[レビュアー] デーブ・スペクター(放送プロデューサー)


ホールズ氏の使命感

 そんななかで、ホールズ氏はめげずに真犯人を追い続けていました。本書にもあるように、彼の管轄であるカリフォルニア州北部のコントラコスタ郡でも毎日犯罪が起きます。「黄金州の殺人鬼」を含めた未解決事件に手をつけていたことは、彼の秘密でした。上司に黙って、さらに休日や夜中の時間を使いながら密かに行っていたことなのです。

 なぜそんなことをしていたのかというと、彼が被害者をよく見ようとする捜査官だったからです。事件の写真も見ますし、被害者家族を訪ねていって元気な時の被害者を知ろうとする。だからこそ彼自身、残酷な事件の衝撃をそのまま受けてしまうのですが、「犯人を許さない」「自分が探し出す」という使命感で動いていきます。

 一度目の結婚生活まで犠牲にしても捜査を続けたのは、「犯人を知りたい」という欲望と、次には人々をこんな目に遭わせたくないという気持ち、そして性格的にミステリーを解くということに取り憑かれていたからだろうと思います。

 アメリカの治安は悪化しています。日本で警察官が殉職するのはレアケースですが、海外では珍しくない。給料も安い。やってられないから、どんどん辞めます。そんな環境でのやりがいとは、自分なりにツールを組み合わせて、誰も解けなかったパズルを解明することだったでしょう。

 そこでホールズ氏は、一生に一度ともいえるような、おぞましく凶悪な未解決事件に出会うことになりました。ある意味では、恵まれている。これほどの使命感で、定年のぎりぎりまで粘った。ストーリーだけで言えば、話ができすぎですよ。とにかく日本にはなかなかいない、執念の捜査官だと思います。

 日本とアメリカでは、重大な犯罪に対する感覚がちょっと違うなと感じます。日本では被害者のプライバシーを守らなければという考えから、一般の人々が捜査からシャットアウトされているのに対し、アメリカでは事件とは、もっと身近でビビッドに感じるものです。情報提供を広く募りますし、捜査官が囲み取材に応じますし、政治家も出張ってくる。解決に協力したい、関わりたいという一般の人が多いのです。

 この本に登場するジャーナリスト、ミシェル・マクナマラには驚きました。ホールズ氏さえ手に入らない捜査資料を、彼女が持っていたことが判明します。日本でも凶悪犯罪はときに起きますが、こんな驚きの捜査は成り立ちませんし、その過程を捜査官自らここまで記録した本が出ることはないでしょうね。

 だからといって、この逮捕でホールズ氏は満足していないと思います。むしろ悔しがっていることでしょう。もっと前に「家系図作成サイト」の技術があったなら。もっと自由に「家系図作成サイト」を捜査に使えたなら。もっと多くの残酷な事件を防げたのにと考えていると思います。


逮捕直後、取調室の椅子にこの姿勢で座ったジョセフ・ディアンジェロ_本書333頁より

 アメリカではいま二〇〇〇人もの連続殺人者がいると言われており、事件もしょっちゅう起きています。被害者の多くは足がつきづらい人、家出少女など、捜索願すら出ていない人です。そういう人から狙われます。ベネズエラからニューヨークに難民が押し寄せていますが、彼らは仮に殺されても身元が分かりません。DV被害、薬物中毒により家族と縁が切れてしまっている人も危ないですね。彼らは身分証明書も処分してしまっている。国が広くて、被害者になりかねない人々が大勢いる。今後も未解決事件は増えていくでしょうね。

 本書はアメリカならではの恐ろしさと人間の力とを、まざまざと感じられる一冊です。

新潮社
2024年1月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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